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第14回 トラクションまとめ [EHL理論]

前回まででトラクションに関する話をいろいろ書きました。今回は第10回~第12回でいろいろ話した油の状態について包括的におはなし致します。

まずこれまでのおさらいですが、油というのは粘性を持っておりまして、その特徴はニュートンの粘性方程式で表されました。しかしせん断応力が大きくなってくるとこの式が成り立たなくなってきて、新たにEyringモデルを取り入れる必要がありました。さらにデボラ数という概念を紹介して、この値が大きくなると粘性だけでなく弾性の影響が無視できなくなることをおはなししました。そして低温、高圧下では油はガラス転移して弾塑性挙動を示すようになり、限界せん断応力が急激に大きくなることを述べました。これらの性質をまとめると以下のようになります。

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もっともらしく4つ並べましたが、結局はみんな③の近似式な気がしてます。なので③を基本に考えといて、トラクションドライブを扱う時はガラス転移に注意しとけばいいんじゃないかってのが自分の考えですが、どうなんでしょうね?

そういえば上記τ0はアイリング応力です。第13回で限界せん断応力に同じ記号を使ってしまいましたがまったくの別物です。すみませんが誤解のなきよう。


今回はこれだけです。ここまででEHL理論の勉強を一旦の区切りに致します。この分野は日進月歩らしく、この場で書いたことはほんの入り口にすぎませんが、EHL理論を学ぶ上で最低限必要な知識はなんとか理解できたかと思います。ブログを立ち上げてちょうど1カ月くらいですね。連休中になんとかここまで書きあげることができてよかったです。

今後のこのブログの行方はどうなるかまだ決めてません。EHL理論について更新するかもしれないし、まったく別のことをとりとめなく書くかもしれないし、完全放置になるかもしれません。今のところはとりあえず技術や科学に関連した内容で気になったことをまったり書いていけたらいいかなあと思っております。

ではこれにて。ここまで付き合って下さった方おられましたら感謝致します。どうもありがとうございました。

第13回 ガラス転移後のトラクション力を求める [EHL理論]

前回は油に高い圧力をかけるとガラス転移して固体のようになることをおはなししました。もうちょっと言うと、ガラス転移によって油は粘弾性的挙動から弾塑性的挙動に変わります。今回はこの弾塑性体におけるトラクション力の求め方についておはなしします。

まず、これも前回話しましたが、油には限界せん断応力というのがあって、それ以上のせん断力はかけられないことを話しました。これを図示すると図1の実線部のようになります。で、せん断速度が小さくてせん断応力とせん断速度が比例する部分を弾性、せん断速度が大きくてせん断応力が一定になる部分を塑性と言ってます。

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図1.弾塑性モデル

ではこのモデルでのトラクション力を考えていきます。いつも2円筒の接触で考えていますが、今回はもっと一般的な状況を考えてみることにします。例えば図2のように曲面どうしが回りながら動力を伝達する状況を考えていきます。ちなみにこの図は有名なので御存じの方も多いと思いますが、ハーフトロイダルCVTの変速ユニットです。動力伝達方向はω1→ω2→ω3です。

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図2.ハーフトロイダルCVT

図2では黒く塗った部分が接触面ですが、この接触楕円を図3に示します。で、トラクション力を考える前に、まずこの接触楕円内のすべり速度について考えていきます。

図3では動力伝達方向[=すべり方向]をxとしているのですべり速度Δuはx方向に働きます。で、2円筒の単純接触であればすべり速度成分はこれだけなのですが、図2のようなややこしい動きの場合は回転成分も考慮する必要があります。詳しくは述べませんが、図3の原点を中心にωspの回転数で回転する成分が加わると思ってください。これは「スピン」と言われております。このスピンをすべり速度で表すとωsprとなります。ちなみにスピンは動力伝達とは無関係なすべり成分なので、発熱の原因になるだけで邪魔でしかありません。なのでこれを極力小さくすることが伝達効率を上げる鍵となります。

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図3.すべり速度成分

以上より、接触面内のすべり速度はΔuとωsprの合計となります。これを定性的に表したのが図4になります。これを見てわかる通り、すべり速度は接触面の各位置によって大きさも向きも変わってきます。ちなみに図3のΔVは変速時に関わってくる成分なのですが、今回は無視しております。

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図4.すべり速度分布

すべり速度の話は一旦ここまでにしておいて、次に限界せん断応力について考えます。

これも接触面の圧力分布を考えますと、中心ほど圧力は大きく、外周部は0になります。これは厳密には違いますが、近似的にヘルツの応力分布と同等と考えることができます。第5回の図1上側の点線みたいな分布です。これを式にすると以下のようになります。
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τ0が接触面内の各位置における限界せん断応力で、当然xとyの関数になります。式中のτcは等温下平均限界せん断応力で、τ0の平均値みたいなものと思ってください。これは以下の式で近似できます。
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mcは前回の図2に示した傾きに相当します。Pmeanは平均ヘルツ圧力です。mcは実験で求める値ですが、近似的にトラクション係数μと同等にできる場合が多いようです。

以上が限界せん断応力についてです。次に接触面の各位置に実際に働くせん断応力のx成分とy成分を求めていきます。

とりあえず接触面全体が弾性域と仮定した時のせん断応力τxとτyを求めます。この場合は弾性モデルなので、両者は以下のように表せます。
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ここで、ひずみ速度γドットは第10回の式(1)で書いた通り、すべり速度を膜厚hで割った値になります。すべり速度は最初に話した通りΔuとωsprの合計です。このうちΔuは動力伝達方向(x方向)のすべりなので、γドットは以下の式で表せます。
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さらに周速をuとすると、u=一定の定常状態では以下の式が成り立ちます。
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式(4)と式(5)を式(3)に代入することで弾性モデルでのτxとτyが求まります。

で、以下のようにτを仮定します。
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ここでτと限界せん断応力τ0を接触面の各位置で比較して、τ<τ0であれば最初の仮定通り弾性域なので式(3)~式(5)で求めたτxとτyになります。そしてτ≧τ0の時は塑性域になるので式(3)~式(5)で求めたτxとτyにはならず、式(3)を以下の式に置き換えて求め直す必要があります。
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ここまできてようやく実際のせん断応力を求めることができました。あとはトラクション力を求めるだけです。

トラクション力Ftは動力伝達方向の力なので、τxを接触面全体で積分すれば求まります。
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添え字のeとpは弾性と塑性を表しております。塑性成分だけτctcの項がついていますが、これは塑性域で発生した熱による限界せん断応力の低下を表しています。ここは前回でも少し述べましたが、塑性域では熱の影響が無視できなくなります。τctが熱を考慮して求めた限界せん断応力で、τcより小さくなります。τctを求める式は考えられているみたいですが、まだ充分な普遍性があるかわからないのでここでは割愛します。

以上、ようやくトラクション力を求めるところまで書けました。最後に、トラクションと膜厚の考え方と比較してみます。膜厚は第3回~第7回でいろいろ述べましたが、大まかに言うと膜厚は面圧の影響をほとんど受けず、接触部入口の状態でほぼ決まるとのことでした。それに対してトラクションは如何でしょうか?

今回の話では接触部入口の話はまったくありませんでした。そして接触面そのものでの圧力分布や油のすべり速度分布を計算しました。つまり膜厚が接触部入口の油の状態で決まるのに対して、トラクション力は接触面内部の油の状態で決まるわけです。

このうち接触部入口の挙動を予測するのは容易なので膜厚に関してはかなりの精度で予測できるようになってきたらしいです。しかし接触面内部の挙動は予測が難しく、トラクションに関してはまだ充分に解明されていないようです。この分野は20世紀から始まった新しい分野なので、これからまだまだ発展していくのでしょうね。

ところでここまで自分で書いておいて理解できないところが1か所あるんですが、式(7)のτcなんですが、これってτ0かと思うのですがどうなんでしょう?自分が調べた資料だとτcだったのでそのままにしたんですが。すみませんがここはちょっと理解できておりません。わかる方がこれを見たら教えて頂けると助かります。


以上です。今回は長くなってしまいました。ほんとはさらっと大まかに書く予定だったんですが、結局こんなになってしまいました。図も式も今まで一番多いんじゃないだろうか。

ここまで付き合ってくれた方、どうもありがとうございました。次回でこのブログの一旦の区切りにしようと思います。では。

第12回 ガラス転移について [EHL理論]

前回までのはなしで、油には粘性と弾性の性質を持っておりまして、トラクションを知るには両方を考慮する必要があることを述べました。また、デボラ数で弾性の影響度がわかることも話しました。今回は油に非常に大きい圧力をかけた時に油がどのように変わるかをおはなしします。

このブログを見て頂いている方はおそらくトラクションオイルについて、少なくとも言葉はご存知かと思います。そしてそれは、「ふだんは普通の油だけど、大きな圧力を受けると急に固まって、大トルクの伝達が可能になる」というのが私も含め一般人の認識ではないでしょうか。専門家の方々に言わせればもっと的確な表現があるかもしれませんが、私はずっとそんなイメージでおりまして、今でもそうです。

その原理を簡単に説明しますと、全部がそうとは言いませんが一般的にトラクションオイルは図1右上のように動力伝達しているみたいです。分子自体に突起と凹みがありまして、普段は各分子がばらばらなので普通の潤滑材として機能するのですが、大きな圧力をかけると接触部で分子が密集するため、互いの分子の突起と凹みが引っ掛かって大きなトラクション力を出せるようになるそうです。で、この「普段のばらばらの状態」から「突起と凹みが引っ掛かる状態」に変わることをガラス転移と言ってるみたいです。

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図1.トラクションオイル

で、ここで前回の話の続きに飛びます。Maxwellモデルはどんな条件でも成り立つわけではありません。前回の式(1)を見れば、ひずみ速度を無限に上げていけばせん断応力も無限に上がっていきますが、実際はどっかで油がせん断力に耐えきれなり、それ以上のトラクション力は出ない上に発熱の原因となります。

つまり油には限界せん断応力τcというものが存在します。そしてこのτcは主に圧力と温度に依存します。図2を見て下さい。これはとあるトラクションオイルの圧力Pに対する限界せん断応力τcの値を示しています。温度によってもτcが変わることがわかると思います。この図から言いたいことは以下の2つです。

①圧力を上げるとτcは大きくなる。
②圧力を上げていき、ある閾値を越えるとτcの増分が急激に大きくなる。
③同じ圧力ならば、温度が高い方がτcは小さい。

このうち①はまあいいとして、まず②について補足しますと、図2横軸の0.8GPaあたりにPGと小さく書いてあります。これはオイルが70℃の時は圧力がPGを越えると急にτcが圧力に依存して大きくなることを言ってます。で、この圧力をガラス転移圧力といいます。

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図2.油の限界せん断応力特性

で、ここで最初に話した図1らへんに戻ります。トラクションオイルに圧力をかけるとガラス転移して大きなトラクションが出せるようになると述べましたよね?図2はそのことを言ってます。ちなみにガラス転移後の油は粘性はほとんどなくなり、固化とか結晶化とか言われてますがようは弾塑性体としての挙動になるそうです。液体から固体になるようなイメージです。

最後に③について少し補足します。②のように圧力を上げていけばτcはどんどん大きくなりますが、それでもひずみ速度がかなり大きい場合には限界のτcを越えることもあります。その場合、結局せん断応力はτcで一定になるのですが、この場合は接触面の発熱が無視できなくなります。そうすると接触面の温度が上がるので、結果として③で述べた通りτcは小さくなってしまいます。このへんは次回もおはなしするかもしれません。

こっからは余談ですが、図2を見るとガラス転移前のτcってほんと小さいですね。前回粘弾性の話をいろいろしましたが、トラクションドライブをやろうと思ったらそのへんの話よりもとにかく圧力を上げてガラス転移させないと話にならんなあと思いました。ガラス転移圧力は条件にもよりますがだいたい1GPaを目安に思っておけば良いみたいなので、トラクションドライブを使うならそのへんの接触圧力は必要ということですね。

では今回はこのへんで。次回は弾塑性体におけるトラクション力の求め方について簡単に触れたいと思います。今回もご覧いただきありがとうございました。

第11回 Maxwellモデルとデボラ数 [EHL理論]

前回の後半部分で、油には粘性以外に弾性の性質も備えており、トラクション特性を知るにはこれらを両方とも考慮する必要があることを話しました。今回はこの粘弾性モデルで使われるMaxwellモデルのおはなしをします。

振動なんかに多少なりとも関わった人にはなじみ深いと思いますが、図1のようなスプリングやダッシュポットを使って力学モデルを表すことがよくあります。

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図1.弾性モデルと粘性モデル

弾性と粘性両方を持った油の性質をこれらの絵で表す時、図2のような2パターンが考えられますが、今回のような液体の粘弾性的性質を表すのには図2左側のMaxwellモデルを使うらしいです。

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図2.粘弾性モデル

で、このMaxwellモデルを引っ張った時のひずみ速度γドットは以下のようになります。
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添え字のeとvは弾性成分と粘性成分を表しております。Gは油のせん断弾性係数です。前回話したEyringモデルはここでは考慮してません。

式(1)をτについて解いて接触面で積分すればトラクション力が求まるわけですが、その前にこのMaxwellモデルでひずみγを一定に保持した場合(γドット=0)について考えてみます。初期条件としてt=0の時にτ=τ*とすると、式(1)は
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となります。これを図示すると図3のようになります。何が言いたいかというと、油にひずみ速度を与えずにほかっとくと、せん断応力はどんどん小さくなっていくということです。このことを緩和現象といいまして、η/Gを緩和時間といいます。緩和時間はせん断応力τの値が1/eになるまでの時間です。

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図3.緩和現象

一方で、油が2物体の接触面入口から出口まで通過するのに要する時間を求めます。図4のように接触面があるとすると、-bからbを周速uで通過するので、通過時間は2b/uとなりますね。これは簡単です。

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図4.接触面

ここで緩和時間η/Gを通過時間2b/uで割った値をデボラ数と名付けます。デボラ数Dは以下のように表せます。
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ここまで脈絡なくいろいろ書きましたが、ようはデボラ数の話をしたかったのです。ここまでの話から、例えばデボラ数が1だったら、接触面出口のせん断応力は接触面入口に比べて1/eの値まで落ちることがわかります。デボラ数が1より大きければせん断応力は接触面出口でもあまり落ちず、逆に1より小さければ1/e以下まで落ちることもわかるかと思います。つまりデボラ数が大きい方が緩和現象の影響を受けにくいということですね。

ところでこの緩和現象ですが、これって粘性の影響によるものだと思いませんか?弾性ならひずみ一定で応力が下がることはないので、少なくとも弾性の影響でないし、粘性はひずみ速度がないと応力が出ないことは式からもわかります。つまり、デボラ数は弾性成分の影響度の大きさを示しております。

この話は式(1)を以下のように表してみることでもわかるかと思います。
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右辺第1項が弾性成分、第2項が粘性成分なので、この式からもデボラ数が弾性成分の影響度に直接関わることがわかります。

このへんの粘性、弾性の影響度とデボラ数の関係を模式的に表したのが図5です。これを見ると、D≦0.1でほぼ粘性、D≧10でほぼ弾性、その間は粘弾性とのことです。このへんの値は文献によってまちまちみたいなので一概にはいえませんが、だいたいそんなイメージでよいかと思います。

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図5.デボラ数と粘弾性の関係

ところで、EHL状態のように接触面にすごい面圧がかかっている時、デボラ数は一体どうなるのでしょう?それにはまず式(3)を見て下さい。面圧が上がると粘度ηは指数関数的に増加することは第4回の式(1)で話しました。それに対してせん断弾性係数Gは圧力に対して比例するらしいです。接触半幅bも大きくなるはずですが粘度の上昇っぷりには到底かなわないと思われます。なので圧力が大きくなるとデボラ数は大きくなり、弾性が支配的になってきます。EHL状態では少なくとも粘弾性として扱う必要はあるようです。

では今回はここまで。次回は弾性についてもう少し詳しくおはなしします。

第10回 Newtonの粘性法則とEyringの粘性モデル [EHL理論]

前回と前々回の話はトラクションのお話でした。ごちゃごちゃ書きましたが結局何が言いたかったというと、「油自体に動力を伝達する能力があって、それは2物体間にすべりがあることで初めて発生する」ということでした。じゃあこの「すべりによる伝達力は油のどういう特性から発生するものなのでしょうか?」というのが今回のおはなしです。

まず、一般的な流体において、ニュートンの粘性方程式があるのは第1回でも触れましたし元々ご存知かと思いますが、これについて簡単に触れます。まず図1ですが、これは床と板のすきまhに油が詰まってて、底面積Aの板を速度Uで動かす状況の図です。で、この板を動かすのに荷重が必要になるというのがニュートンの粘性法則で、ここではその荷重をFとしてます。具体的に式で表すと、

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図1.粘性流動

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となります。せん断応力をτ[=F/A]とおいて、(1)を一般的な形にすると
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となります。これがニュートンの粘性方程式ですね。

まあ、ただの粘性の話なんですが、ここで改めて言いたいことは、「油の粘性があるせいで板を動かすのに力が必要になる」ってことです。で、図1は板と床のモデルなので床は完全固定されてますが、油を介して板から力を受けてるのはわかると思います。つまり床は油によって図1の右方向へ「駆動」する力を受けてるわけです。なのでこれも立派なトラクション力です。床が固定されてなければ板につられて床もきっと一緒に動くでしょう。

ただし、ここまでのおはなしは御承知の通り、一般的な流体潤滑状態での話です。これに対してCVTや遊星ローラなどのトラクションドライブにおける油の状態はちょっと特殊な状態になっておりまして、新しい考えを取り入れる必要があります。具体的には以下の2つです。

①ニュートンの粘性方程式が成り立たなくなる。
②油には粘性だけでなく「弾性」も備えており、特にEHL状態ではそれが支配的になってくるため、粘性と弾性の両方を考慮する必要がある。

このうち②はボリュームがあるので次回にして、今回は①についておはなしします。

まず、図2を見て下さい。ニュートン粘性と書いてある方はせん断速度とせん断応力が比例しております。これは式(2)をそのまま図に書いただけで、このような傾向を示す流体をニュートン流体と言っております。しかし現実にはニュートン流体は存在せず、図2のアイリング粘性と書いてある方のように、せん断応力がτ0を超えたあたりから比例しなくなります。このτ0は油の種類や条件によって変わりますが、傾向としてはそんなかんじです。

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図2.アイリング粘性

で、この傾向をアイリングという人が分子論的に検証して定式化したのが以下の式になります。
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これがEyringの粘性モデルです。ちなみにγドットはせん断速度で、式(2)で言うdu/dyと同じものと思ってください。τ0は特性応力もしくはEyring応力といわれているもので、τ≦τ0の時は
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と近似できるので、式(3)は
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となり、式(2)と同じ形になります。つまりτ0はニュートン流体として成り立つ限界の応力ということです。これは図2からもわかると思います。


では今回はここまで。次回は先ほどの予告通り、油の粘性だけでなく弾性も考慮したモデルのおはなしをします。

第9回 トラクション特性について [EHL理論]

さて、前回はトラクションという語句の説明だけで終わってしまいました。そしてEHLのブログなのに油のこと何も書かなかったことにも気がつきました。なので今回は油に絡めてトラクションのおはなしをしていきます。

まず、EHL理論が必要になる状況ですが、自分がすぐ思いつくのは

① エンジンのカムとフォロア
② 転がり軸受け
③ トラクション式CVT
④ 遊星ローラ

あたりです。これらをトラクションの観点から分けると、①ではトラクション力は動かしたい方と違う向きに働くので、トラクション力は邪魔でしかありません。②ではトラクション力があまり小さいと中のボールやころが接触面で滑ってしまってうまく転がらなくなる可能性があります。ですが逆にトラクション力が大きくなりすぎると動力損失の原因となるので、ちゃんと転がる程度のトラクション力があればよいです。で、③と④ですが、これはもうトラクション力で動力を伝達するものなのでトラクション力は必須です。じゃないと機構が成り立ちません。

なのでこれらの用途に応じて油を使い分ける必要があるのです。①ではとにかく摩擦力が少なく潤滑性の良い油を使い、③や④ではトラクション力をなるべく稼ぐためにトラクションオイルと言われる専用の油を使います。②はその中間かな?すいませんよくわかりません。

で、油のトラクション特性なんですが、定性的には図1のようになります。油の種類によって曲線A、B、Cのようにいろいろなパターンがありますが、共通するのは 接触面のすべりによってトラクション力が発生する ということです。この理由はちょっとややこしいので多くは述べませんが、ここでは油の持つ粘性と弾性によるものとだけ書いておきます。ですが大事な部分なのでまた後日詳しくお話します。

で、図1に戻りますと、例えば先程の①なんかは曲線Cみたいなのが良いんじゃないかと思います。で、③と④は曲線Aが理想です。なぜなら「すべり」は動力損失に直接つながる要因なので、少ないすべりで大きなトラクション力を出せる曲線Aの方が都合が良いわけです。なので一般的に③や④に使われるトラクションオイルと言われる油は曲線Aを狙って作られているはずです。

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図1.伝達力

まあ、単純にトラクション力がほしいだけなら油をなくして直接接触している方がいいんでしょうが、そんなことしたら接触部が摩耗してすぐ使い物にならなくなるんでしょうね。余談ですが、なんかいろいろこういうの調べてると油ってすごいなあって思います。本来は潤滑に使うものなのに、動力伝達にも使えるんですからね。やり方次第で真逆の使い方ができるってすごいなあと思うんです。これも先人達の研究や開発の賜物なのでしょうね。

で、次は図2を見て下さい。図1と似た形ですが、今度は横軸がすべり率(Δu/uバー)、縦軸がトラクション係数(μ)となっています。以下は各記号の説明です。

 Δu:すべり量 (前回の図1で言うと、U1-U2、つまり2物体の周速差)
 uバー:平均周速 (前回の図1で言うと、U1とU2の平均値)
 μ:トラクション係数[=駆動力/押し付け力] (前回の図1で言うと、F/W)

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図2.トラクション曲線

すべり率は2物体の平均周速に対する2物体間のすべり量の割合で、なんとなくわかると思います。そして駆動力Fは、F=μWで決まるわけですね。で、μは油の物性値で、油の種類や状態によって変わってきますが、すべり率に対しては図2のような傾向を示します。この図はEHLの教科書を見てると必ず出てきますね。もちろん③や④ではμは大きい方が良いです。

で、この図で言いたいことが2つあります。1つはこのトラクション曲線の形で、すべり率が微小な時はすべり率とトラクション係数は比例します。これが線形領域で、すべり率が大きくなると次第にこの比例関係が崩れてきて非線形領域になり、μ(トラクション係数)はすべり率に対して一定値μmaxに向かいます。で、さらにすべり率が大きくなると熱領域となり、今後はμは下がってしまいます。最後で熱領域と言う理由ですが、この領域ではすべりが大きくなりすぎて油の発熱が無視できなくなり、温度上昇によってμが下がってしまう領域だからです。伝達力を稼ぎたいなら非線形領域のμmaxあたりを使うのがよろしいかと思います。

そしてもう1つの言いたいことですが、図2にでかい矢印があります。これは図にも説明がありますが、周速が増大したり、面圧が小さかったり、高温になったりするとトラクション特性は矢印のように変化します。まあここはなんとなくイメージできるんじゃないかと思います。なので伝達力を稼ぎたいなら、ゆっくり回して、押し付けを強くして、しょっちゅう冷やすと油は踏ん張りが効くわけです。まあ、冷やしすぎも良くないのですが。

余談ですが、自分はどっちかっていうと機械系や材料系の人間なので、こういう図を見ると材料の応力-ひずみ曲線を想像してしまいます。なんかそっくりだと思いません?


というわけで、今回はここまでです。前回と合わせて教科書1ページにもならん内容をくどくど書いてしまったので、最後に2回分の内容をさらっとまとめてみます。

① トラクション力とは、接触する片方の物体が相手を牽引する力のことである。
② EHL条件下では、トラクション力は2物体の周速が異なる時(すべりがある時)に発生し、周速の大きい方から小さい方へ伝達する。
③ トラクション力Fはトラクション係数μと押し付け力Wの積で求められる(F=μW)。
④ トラクション係数μは油固有の物性値であり、図2のようにすべり率の値によって「線形領域」「非線形領域」「熱領域」に分かれる。
⑤ トラクション係数μは、周速が増大し、面圧が低下し、温度が上昇すると小さくなる。
⑥ トラクションドライブのCVTや遊星ローラでは、μが大きいほど効率良く動力伝達できる。

まとめるとだいたいこんなとこでしょうかねえ。次回からは油のせん断特性のおはなしになりますが、こっからちょっと難しくなるので自分の理解のためにもなるべく丁寧にやっていこうと思ってます。とりあえず次回は先ほど少し話した、油が持つ粘性と弾性のことからおはなししていきます。

でわ。今回もご覧いただきありがとうございました。

第8回 トラクションとは? [EHL理論]

さて、今回からは前回の予告通りトラクションのおはなしをしていきたいと思います。で、まず今回は「そもそもトラクションってなに?」ってところからおはなしします。

遊星ローラやCVTを調べてると「トラクション」って言葉が良く出てきます。なんとなく摩擦で動力を伝達する力みたいな理解でしたが、「フリクション(摩擦力)」と何が違うんでしょうかね?CVTなんかでは昔はトラクション方式とフリクション方式があったみたいです。といってもフリクション方式は廃れてしまいましたが。ただ、この例からも「トラクション=フリクション(摩擦)」ではないことがわかります。

ちょっと辞書で「traction」で調べてみると、「牽引力」という言葉が目に付きました。あと、自動車でトラクションというと、タイヤが路面を蹴って車体を動かす力のことを言うみたいです。グリップとの違いですが、グリップがタイヤと路面の接地力というか、摩擦性能全般を指すのに対し、トラクションはその中の駆動性能(車を前に進める力)のみに対して使われる言葉のようです。

で、ようやく本題ですが、タイヤの例にもある通り、トラクションはフリクションの一部と自分は捉えています。物体が接触すれば当然多かれ少なかれ摩擦力が発生しますが、この摩擦力のうち駆動方向に牽引する摩擦力のみをトラクション力と言うみたいです。

具体的に図で表してみますと、図1のようになります。図1は2円筒が左右に2つ並んでいますが、このうち右側の矢印Tがトラクション力を表しています。この図のイメージですが、上下円筒をWの荷重で互いに押し付け、上側の円筒をモータなりで周速U1で回し、接触部の摩擦力によって下側の円筒を回してると考えてみてください。上側の回転力を下側へ伝えてるのでこの摩擦力はトラクション力に相当しますよね?トラクション力はもちろん図のTのように互いに反対向きの力となります。作用反作用の関係です。で、下側の周速をU2とすると、一般的にU1>U2となります。

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図1.トラクション

じゃあ左側の2円筒のFはなんだということですが、これは一般的な転がり摩擦力を表しています。単純に転がり運動を妨げる力ですね。なので力の向きも単純に転がり運動に対して反対方向、つまり図1だと力Fの矢印で表す通り、上下円筒で同じ向きに働きます。トラクション力はU1>U2となるのが普通ですが、転がり摩擦はいつでも発生します。そしてトラクション力に比べて転がり摩擦力は無視できるくらい小さいらしいです。

ちょっと自信を持って言えないことなのですが、トラクション力の正体ってすべり摩擦なんですかね?タイヤが路面を蹴って走れるのってすべり摩擦力のおかげなんですよね?EHLでは油で動力を伝えるので正確には違うかと思いますが。なんかTとFの関係がすべり摩擦と転がり摩擦の関係に似てるような気がしました。


では今回はここまでにします。今回はほんとはもっと続きを書く予定だったのですが、けっこうな文量になってしまったので次回と分けることにしました。なのでかなり薄い内容になってしまいましたが、こういう言葉の定義なんかを理解してるかどうかでその後の理解度が自分はけっこう変わってくるのでいろいろ書いちゃいました。まあ、まとめると「トラクション=駆動力」の一言で片付く内容でしたが。

次回はトラクション特性についておはなしします。でわ。

第7回 速度の影響、膜厚まとめ [EHL理論]

これまでEHL条件下での膜厚の話を中心にしてきましたが、今回で一旦膜厚の話に区切りをつけます。

今回はまず、2物体の周速が非常に大きくなった時に膜厚がどうなるかを話します。こんな話をするのは、周速が大きくなると膜厚が理論式と合わなくなるからです。

図1の左側を見てください。これを見ればわかりますが、周速が大きくなると入口付近で油が逆流して渦みたいになるわけですね。で、これまで述べませんでしたが、こういうふうに油自身にせん断力がかかると油が発熱します。これは周速が低くて渦にならない時でもせん断力を受けてるので発熱はあります。ただ通常はそれほど大きくないので特別扱わなくても問題なかったのですが、渦になった場合は発熱の影響が無視できなくなります。自分は油の中で分子同士がぶつかり合って熱が出る状況をイメージしてます。

で、発熱が大きくなると一般的に油の粘度は下がります。そうするとどうなるか。Dowson-Higginsonの式からわかるように、EHL条件下では粘度や周速が大きくなると膜厚は大きくなりますが、温度が上昇すると粘度が小さくなるので膜厚があまり大きくならなくなります。それを図にしたのが図1の右側です。この図だと周速が10m/sを超えると逆に薄くなってますね。

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図1.周速の影響

膜厚は目的によっては必ずしも厚い方が良いわけではありませんが、ただあまり薄くなって物体の表面粗さよりも膜厚が小さくなると物体同士が接触してしまい、流体潤滑状態ではなくなってしまいます。つまり表面が摩耗などの損傷を起こしてしまうわけです。なので周速があまり大きい場合には注意が必要なのです。


さて、膜厚に関する話は以上ですが、最後にこれまで話した中で膜厚に関する定性的な内容を簡単にまとめます。

① 接触部は、膜厚が一定となる部分が大半である
② 接触部の出口付近に圧力スパイクと膜厚最小部が存在する
③ 膜厚は接触部入口の油の状態でほぼ決まる
④ 膜厚は荷重の影響をほとんど受けない
⑤ 膜厚は油の粘度や物体の周速が大きいと一般的に厚くなる
⑥ 周速が大きくなると発熱により粘度が低下して膜厚を薄くする要因になる

正直に言いますとまだ理解しきれていない点もありますが、だいたいこんなかんじかと思われます。やはり④が普通の感覚と違う点かなあという気がします。


以上、膜厚に関するおはなしでした。ここからは余談になりますが、自分がEHL理論の勉強を始めたきっかけは、トラクション方式を用いた動力伝達機構の開発を会社で始めることになったからです。なので最終的にほしいのはトラクションドライブの伝達力や動力損失であって、膜厚ではありません。ただ、当然ながらトラクション特性には膜厚も影響してくるし、膜厚に関する話がある程度理解できていないとトラクションは理解できないと思ってます。あと、油に関してこれまであまりに無知だったのでまずは膜厚の内容を把握することでEHL条件下での油がどういう傾向を示すのか感覚的に掴んでおきたかったってのもあります。

そんなわけで次回からは自分にとっての本題である、トラクション特性について書いていきたいと思います。ですがここからはちょっと難しくなってくるのと、自分の勉強する時間が確保できなくなってきました。なのでこれからは更新のペースが今よりもさらに遅くなりそうです。この連休のうちにできるだけ進めておきたいですが、ちょっとどうなるかわかりません。明日更新するかもしれないし、来月になるかもしれません。このへんはご容赦願います。

自分はこの場が初めてのブログになります。今でもわからないことばかりですが、少しずつ慣れてきました。内容が内容だけにこのブログを見てくれる人なんて誰もいないだろうと思ってましたが、履歴を見るとちゃんと来てくれる人がいらっしゃるようで、感謝してますし、励みになります。どうもありがとうございます。更新頻度は良くないですが、今後も付き合って頂けるとうれしいです。

では今回はこれで。今後もよろしくお願いします。

第6回 4つの流体潤滑モード [EHL理論]

前回までにEHL状態時の膜厚を求めるのにどんな計算をしてきたのか簡単にお話ししました。今回はEHL以外の膜厚計算式についても触れてみたいと思います。

くどいですが、EHL理論は従来の流体潤滑理論に固体の弾性変形と圧力による油粘度上昇の2点を取り入れたものと何度も述べました。これは暗黙のうちに鉄などの硬い2物体を押しつける場合をイメージしておりましたが、例えば樹脂のような比較的軟らかい物体だと、それほど圧力をかけなくても簡単に変形します。つまり、固体の弾性変形は考慮しないといけないけど圧力による油粘度上昇は考えなくてよい状況が起こり得るわけです。で、このような状態を「ソフトEHL」と言い、今まで考えていた状態は「ハードEHL」と言います。

また、この他にも固体の弾性変形はほとんどなくて粘度のみ変化する状態と、変形も粘度変化もない状態(普通の流体潤滑ですね)がありまして、全部合わせると4つの状態があるわけです。ここまでを簡単にまとめますと、

① 等粘度-剛体領域(IR領域) ←流体潤滑
② 高圧粘度-剛体領域(PR領域)
③ 等粘度-弾性体領域(IE領域) ←ソフトEHL
④ 高圧粘度-弾性体領域(PE領域) ←ハードEHL

と分けることができます。これがタイトルの「4つの流体潤滑モード」です。第1回で話した内容は①で、第2回から前回まで話してた内容は④になりますね。で、先人たちの努力により、各領域の膜厚計算式がそれぞれ提唱されています。それは表1のように無次元数を定義すると、表2のように表せます。

表1,2について、ちょっと補足します。まず表1ですが、無次元表示にも3パターンありまして、まずDowson-HigginsonのH,W,G,Uによる無次元表示は以前述べたのですぐわかると思います。こうやってまとめた方が各パラメータの影響度が一目でわかって便利ですよね?このような無次元化を他の人も試みており、それがBlok-MoesのM,Lや、Greenwood-Johnsonのg1~g4に相当するわけです。

で、それぞれの無次元数で膜厚を表現したのが表2になります。この表を使えば、自分の知りたい状態がどの流体潤滑モードかさえわかれば最小膜厚はすぐに計算できるわけです。じゃあどうやってモードを調べるかですが、それには図1を使います。図1は潤滑領域図と言われているもので、これを使えばGreenwood-Johnsonの決めた無次元数であるg1とg3の値がわかれば、自分の知りたい状態がどの潤滑モードになるのかがわかります。

表1.無次元表示(線接触の場合)
06_T01_無次元式.jpg

表2.最小膜厚計算式(線接触の場合)
06_T02_膜厚計算式.jpg

06_01_潤滑領域図.jpg
図1.潤滑領域図(線接触の場合)

実際に膜厚を求める手順を以下にまとめます。

① g1とg3を計算する
② 図1からどの潤滑モードになるのかを調べる
③ 表2から膜厚を計算する

こんだけですね。膜厚は先人達のおかげで式が確立されてるのでラクに出せます。

ところで図1を見ると、PE領域、すなわちハードEHL領域が少ないように感じます。これについては、じつはPR領域の中にEHL領域と似たような特性を示す領域があるらしく、そのへんもEHL領域に含めるべきという指摘もあるようです。なので、その点を考慮した潤滑領域図も提唱されているみたいです。

そもそもPR領域ってのは、物体の変形は考えなくていいけど圧力による油の粘度変化は考えないといけない領域なんですよね。それってどういう状況だとそうなるんでしょうね?よっぽど硬い物体か、接触半径と荷重がめちゃくちゃ大きい場合ですかね?ちょっとこのへんはイメージしにくいです。

ところでいまさらですが、今回掲示した図や表も全部2円筒接触のような線接触のものです。点接触の方が式は複雑ですが、基本的な考え方は同じはずです。

では今回はこのへんで。次回で膜厚の話は終わりにする予定です。

第5回 膜厚について(3) Dowson-Higginsonの式 [EHL理論]

EHL理論をいろいろ調べてると、Dowsonという人がよく出てきます。どうもこの人がEHL理論の構築と発展に大きく寄与しているみたいです。今回はこの先生の名前のついたDowson-Higginsonの式についておはなしします。

この式はどんな式なのか最初に簡単に話しますと、前回のErtelとGrubinは2円筒モデルの膜厚を計算するのにいろいろ単純化をして解析解を求めましたが、DowsonとHigginsonはそういった仮定をせずに複雑な連立方程式を数値計算で求め、最終的に2円筒モデルの膜厚を簡単な式で表しました。だから前回の式は多少なりとも現象に合わせこむ部分もあったのですが、今回お話しする式では理論的に接触部の膜厚分布や圧力分布が導き出されたわけです。といっても一部実験式は使用していますが。

で、どんな式を連立したかということなんですが、まずは前回同様、レイノルズ方程式とBarusの式(粘度の圧力による変化式)です。それから圧力により油が多少圧縮されて密度が大きくなるため、実験によって求めた密度-圧力関係式を使います。それが以下の式です。
05_(1).jpg
ρ:高圧時の密度
ρa:常圧密度

あと、Ertel-Grubinの式では膜厚は一定と仮定しましたが、今回は2円筒の弾性変形δから任意のx位置での膜厚hを以下のように仮定します。
05_(2).jpg
  05_(3).jpg

あと、第3回の式(3)同様、外力wを油の圧力pで支えているので以下の式が成り立ちます。
05_(4).jpg

これらの式を連立し、数値計算することで最小油膜厚さは以下の形になるらしいです。
05_(5).jpg

これが冒頭で述べたDowson-Higginsonの式です。この式からも荷重の影響は少ないことがわかりますね。で、このやり方で求まる圧力分布と油膜形状は図1のようになります。これを見ると圧力分布はだいたいヘルツの分布に似てますが、入口で少しずつ圧力が増加していることと、出口手前で圧力スパイクと言われているピークがあることがわかります。膜厚はほぼ一定ですが、こちらは出口手前で凹んでる所がありますね。このへんの特徴は実験でも確認できているらしいです。
05_01_Dowson-Higginson.jpg
図1.Dowson-Higginsonによる圧力分布と油膜形状

ちなみにこの中央部の一定膜厚をhcとおくと、hcは以下の式で表せます。
05_(6).jpg

これは自分の勝手なイメージですが、膜厚が荷重の影響を受けにくい理由は、やはり物体の弾性変形と油の粘度上昇じゃないのかなあと思ってます。普通に考えれば力をかければその分油が潰れやすくなって(すごいいい加減な書き方ですが)膜厚は小さくなりそうですが、円筒が弾性変形することで接触面積が大きくなるので思ったほど圧力が上がらないのと、油も圧力を受けて粘度が上がるのでその分だけ持ちこたえるのでは?というふうにイメージしております。そんなかんじですかね?もし詳しい人がこれを見てくれてたら教えて下さると助かります。

さて、ここまで2円筒モデルについてずっと話してきました。もちろん球-球接触や楕円接触などにも理論式が確立されていますが、ここでは触れません。基本的な考え方は一緒だと思うので。

では今回はここまで。膜厚計算の話はこれで終わりです。次回は4つの流体潤滑モードについておはなしします。

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