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第4回 膜厚について(2) Ertel-Grubinの式 [EHL理論]

今回は従来のレイノルズ方程式に、円筒の弾性変形と油の圧力による粘度増加の考えを加えていくわけですが、それらの式をまともに連立して解こうとしても、式が複雑すぎて解析的に求めることはできません。なので数値計算で解かれることが一般的です。ですが、そのような数値計算が本格的に行われる以前にErtelとGrubinが思い切った単純化を行うことで、解析的に膜厚を求めております。しかもこれがけっこう精度が良いとのこと。

今回はこのErtel-Grubinの式についてお話します。
まず彼らの行った単純化の内容ですが、以下の2つです。
① 2円筒の接触部は弾性変形しており、その形は油膜がない時のヘルツ接触と同じとする
② 油の粘度の圧力による変化をBarus式で表し、接触部入口で圧力無限大とする

Barus式は以下の通りです。
04_(1).jpg
 η0:大気圧での粘度  
 α:粘度-圧力係数    
 p:圧力             
 η:圧力pでの粘度   

まあ、今まで何度も言ってる「粘度の圧力による変化」というのを数式にしたものですね。αは油の種類によって決まっており、これが大きいほど圧力による粘度上昇が大きい油なわけです。しかも指数関数なので圧力が大きくなるとものすごく粘度が高くなります。そりゃあ粘度一定で計算してたら合わないわけです。

で、①と②の仮定を図に表すと図1のようになります。上の図が接触部の圧力分布で、接触部入口で圧力が無限大に向かってるのがわかります。実際の圧力は点線のようになりますが、ここでは実線のように仮定しております。で、下の図が膜厚形状で、ヘルツ接触により弾性変形している領域(-b<x<b)で膜厚が一定になっていることがわかります。
04_01_Ertel-Grubin.jpg
図1.Ertel-Grubinによる圧力分布と油膜形状

これらの仮定をもとに前回同様レイノルズ方程式と連立すると、最終的に膜厚は以下のように表せます。
04_(2).jpg
これがいわゆるErtel-Grubinの式です。突然見たことない大文字ばかり出てきましたが、これらは以下の式で表せます。
04_(2)_1.jpg
式中で使われるE’は、等価弾性係数と言われるもので、以下の式で表せます。
04_(2)_2.jpg

これらのG、U、Wなどは各パラメータの大きさを示しており、式(2)の各指数は各パラメータの影響度の大きさを示しております。で、これを見ると、W、つまり荷重の影響は指数が0に近いことからほとんど膜厚に影響しないことがわかります。もう少し具体的に言うと、通常の流体潤滑状態では押し付け力が大きくなるほど膜厚は薄くなりますが、押し付け力をさらに上げて接触面が弾性変形するくらいになると、そこからさらに押し付けても膜厚はほとんど変化しなくなります。

冒頭にも述べましたが、このErtel-Grubinの式はけっこう精度が良いらしいです。その理由は、最初に述べた①と②の単純化がうまくできているためでしょう。先ほどは詳しく述べませんでしたが、このモデルでは固体の弾性変形と粘度の圧力による変化を考慮していることはもちろんですが、それだけでなく、接触部入口での圧力分布と油膜形状をちゃんと考慮している点がポイントです。EHL状態での膜厚は接触部入口の状態でほぼ決まることが後の研究でわかっておりますが、ErtelとGrubinがそういう本質を当時の段階でしっかり抑えていたことがよくわかります。ほんとすごい人っているもんです。

では今回はここまで。次回は今回のような単純化による解析結果ではなく、数値計算によって求められたEHL状態での膜厚分布や圧力分布のお話をします。

第3回 膜厚について(1) Martinの式 [EHL理論]

前回はEHL理論が誕生した背景のお話をしました。内容を簡単にまとめると、転がり軸受けや歯車のかみ合いのように接触部で非常に大きな面圧が発生しているような状況では、従来の流体潤滑理論を適用すると、膜厚が非常に薄くなって油膜を確保できないはずなのに実際はちゃんと油膜を確保できるくらいの膜厚を確保しており、この矛盾を解決したのがEHL理論ということでした。そしてEHL理論は従来の流体潤滑理論に固体の弾性変形と潤滑油の圧力による粘度変化の考えを取り入れたものでした。

今回からはこのへんの膜厚に関する話を数回に分けてやっていきたいと思います。まず今回は従来の流体潤滑理論で油膜の厚さをどうやって算出するか話していきます。といっても計算過程まではここでは書きません。考え方だけを書いていきます。

一番わかりやすい例として、図1のように2つの円筒が互いに押しつけながら回転している状況について、接触部の油膜厚さ、つまり膜厚を考えていきます。ここで2つの円筒の半径をそれぞれR1、R2とおくと、実は図1の形状は図2のように平板と半径Rの関係と同じものとして考えることができます。この時のRを等価曲率半径と言いまして、式は図1の右の方に書いてあります。で、両者を比べると図2の方が計算しやすいので今後はこちらの形状から膜厚を求めていきます。

03_01_2円筒.jpg
     図1.剛体2円筒モデル

03_02_等価半径.jpg
     図2.剛体2円筒モデルの等価形状

仮に図2のように油膜が最小となる位置での膜厚(最小油膜厚さ)をh0とおき、任意のx方向(油の進行方向)での膜厚をhとおくと、2円筒は剛体なので(流体潤滑理論では剛体と考えます!)円筒の形状から、hは以下の式で表すことができます。
03_(1).jpg
この式からわかることは、最小油膜厚さh0さえわかれば任意のxでのhつまり任意の位置での膜厚がわかるということです。だからh0をなんとかして求める必要があります。どうすればいいでしょうか?

ここで、流体潤滑理論の話の時に少し話に出した「レイノルズ方程式」を使いましょう。ここでは詳しく書きませんが、この場合のレイノルズ方程式は以下のようになります。
03_(2).jpg
 p:油の持つ圧力
 z:2円筒を押しつける方向の位置成分
 η:油の粘度
 u1、u2:2円筒のそれぞれの周速(図1参照)
 V:2円筒のz方向の周速差

さらに、円筒の軸方向(y方向)から見た時の単位長さあたりの2円筒の押し付け力をwとおくと、以下の式が成り立ちます。
03_(3).jpg
この式は外部からの押し付け力を油の圧力で支えていることを表しています。一般的に膜厚が薄いほどpは大きくなるそうです。言いかえればwが大きくなればpも大きくならざるを得ないので必然的に膜厚は薄くなるわけです。

以上の式(1)~(3)を連立することで最小油膜厚さh0を求めることができます。まあ実際には近似とか変数変換とか境界条件の設定とかいろいろやってますけど複雑なので省略すると、最終的にh0は以下の形に表せます。
03_(4).jpg
ここで、uバーはu1とu2の平均周速(図1参照)です。この式はMartinの式と言われています。これを式(1)に代入すれば任意のx位置での(といっても中心付近に限りますが)膜厚hを求めることができます。


うーん。どうもうまく説明できませんでしたが、今回の話をまとめてみます。
① 今回は、2つの円筒が油膜を介して互いに押しつけながら回転している状況について、従来の流体潤滑理論を用いて膜厚の計算式を求めました。
② そのために、まず油膜形状(h)を数式で表し、レイノルズ方程式で油の圧力分布(p)を求め、その総和が外部からの押し付け力(w)と等しいと考えて3つの式を立て、これらを連立して最終的にMartinの式の形にまとめることができました。

さて、これまで何度も書いてますが、この方法は従来の流体潤滑理論で導かれた結果なので、実際にMartinの式を用いると膜厚は実際よりも非常に薄くなるはずです。そこで、円筒の弾性変形と、油の圧力による粘度増加の考えを取り入れることでより現実に近い膜厚が算出できるようになりました。このへんの話を次回したいと思います。

では今回はこのへんで。ここまで見てくれた人、どうもありがとうございます。気が向いたらコメントいただけるとうれしいです。間違いなどありましたら指摘してやってくださいませ。

第2回 なぜEHL理論が必要になったのか? [EHL理論]

前回は流体潤滑理論の話を簡単にしました。なぜこんな話をしたのかと言うと、EHL理論は流体潤滑理論の一部だからです。なので2物体間の油膜を扱う点ではどちらも同じです。ただし一般的に言われている流体潤滑理論は「レイノルズ方程式」を基本として論理展開しております。しかし前回も触れましたが、レイノルズ方程式はいくつかの仮定のもとに成り立つ式なわけで、この仮定が成り立たない状況も世の中には存在するわけですね。そんな中で登場してきたのがEHL理論なわけです。

じゃあEHL理論は具体的にどんな状況を扱うものなんだということですが、具体例としては転がり軸受けのボールと内外輪やころと内外輪の接触面なんかがそうです。あとは歯車のかみ合いなんかもそうです。これらに共通するのは接触面の面圧が非常に大きいことです。なぜなら接触面は点あたりや線あたりに近い状況なので、外力がそれほど大きくなくても接触面はものすごい面圧になっているわけです。

このような状況で従来の流体潤滑理論を適用して油膜の厚さを算出したら、面圧が大きいおかげで膜厚はものすごく小さくなり、一般的な表面粗さだと膜厚の方が小さくなってしまうそうです。つまり2物体は接触してしまいます。それってつまり流体潤滑状態ではないってことですよね?油膜が不充分なので物体表面は摩耗などの損傷をおこしてしまうはずです。

しかし実際に軸受けや歯車を長時間使用しても接触面が荒れている様子はなく、表面はきれいそのものです。この矛盾をどうやって説明すればいいのかという難題に対して賢い先人が考えたのが、

流体潤滑理論に「物体の弾性変形」と「潤滑油の圧力による粘度変化」を取り入れる

というものでした。ここがEHL理論のおおもとの考え方です。この2つの考えを取り入れることで先の矛盾が解決されたとのことです。具体的に書くと、転がり軸受けや歯車のかみ合いにおいても流体潤滑状態を維持する充分な膜厚が理論的に導き出せたのです。

ここでちょっと前回の話と絡めると、流体潤滑理論ではいくつかの前提条件がありました。先ほどEHL下ではこれが成り立たないと述べましたが、具体的には前回の①と②が成り立たなくなります。このうち②はすぐわかると思います。なぜならさっき圧力による粘度変化を取り入れるって書いたから。じつはEHL下では温度による粘度変化も影響してくるのですがそれはまた後日書きたいと思います。①についてもまた後日。

ちなみにEHLとはElasto-Hydrodynamic-Lubricationの略で、日本語で「弾性流体潤滑」と言います。なのでEHL理論は「弾性流体潤滑理論」となります。

では今回はこのへんで。次回はEHL下での膜厚についてお話します。

第1回 流体潤滑とは? [EHL理論]

さて、前回EHL理論の話をすると書きましたが、その前にまず予備知識として「流体潤滑理論」の話をします。

流体潤滑とは、互いに滑りあう2物体の表面が流体膜(油など)によって完全に離れている状態のことを言います。よく例にされるところでは、すべり軸受けと軸の摺動なんかが流体潤滑です。固定された軸受けに対して軸は回転したり摺動したりしていますので隙間に油が入っていなければ軸や軸受けの表面はすぐに摩耗していますが、間に油があるおかげで両者は接触せず、軸も摩耗せずに滑らかに動けるわけです。この状態が流体潤滑状態です。

にわか知識ですが、自分がちょっと調べたかんじではどうも以下の3つが満たされたときに流体潤滑理論が適用されるみたいです。

①2物体の表面が非常に接近しており、その隙間がわずかであること
②その隙間は流体膜(油など)で満たされており、2物体は完全に離れていること
③2物体は互いに相対運動していること

で、この状態では流体膜の中で圧力が発生し、流体膜に荷重を支える能力(負荷能力)が生まれるらしいです。つまり2物体を接触させようとする外力が働いても流体膜が持ちこたえて流体潤滑を維持してくれるみたいです。すべり軸受けの中でもとりわけジャーナル軸受を例にすると、軸にラジアル方向に力を与える、つまり軸を倒すように力をかけてしまえば倒した側の軸外径と軸受け内径は油膜が切れてもおかしくなさそうですが、流体潤滑状態であれば油の負荷能力のおかげで油膜が持ちこたえます。そのため両者は接触しないので摩耗もありません。つまり油で流体潤滑状態になることで軸受けは初めてラジアル荷重に耐えられるわけです。

このへんの考えはニュートンの粘性方程式(τ=η・du/dy)を狭い隙間に適用することで導かれる「レイノルズ方程式」が基本になっています。ということは、これまで話した現象は流体膜の粘性が原因のようです。

ただしこのレイノルズ方程式が導かれる過程にはいくつかの前提条件があります。じつはこれがたくさんありまして、

①2物体間の流体は非圧縮性ニュートン流体(τ=η・du/dyが成り立つ)である
②粘度は一定である
③流れは層流である
④体積力と慣性力の影響は無視する
⑤速度勾配は膜厚方向でのみ考える
⑥圧力は膜厚方向に沿って一定である
⑦個体壁面と流体とのすべりはない

などがあります。このブログではEHL理論の話がメインなので流体潤滑についてはあまり触れる気はないですが、この中で①と②は今後の話に関わってくるので気に留めておいてください。

では今回はここまで。では次からEHL理論についてお話します。

はじめまして

はじめまして。Qです。とあるメーカーで開発職をやっております。

あることをきっかけにEHL理論を勉強することになりました。EHL理論(弾性潤滑理論)はトライボロジーの1分野ですが、本を見てもわからないことばかり。それもそのはず自分はトライボロジーをほとんど知らないどころかここ数年は勉強というものにまったく縁がない状態なのでした。

ちょっとこれはまずいと思い、今回はちょっと腰を据えてEHL理論に取り組んでみようと思い至りました。

まあ、勉強するだけならブログにする必要はまったくないわけですが、学んだことをブログにでも書き綴っていけば理解も深まるかなとか、運よくこのブログを見てくれた人がいてコメントをいただけるとうれしいかなとか考えてしまいました。

ここではとりあえずEHL理論について自分なりに理解したことを書きなぐっていこうと思います。ただしド素人の書くことなので、とりあえずイメージをつかむことを最優先におきます。なので正確さが損なわれるかもしれませんし、完全に間違ったことを書くかもしれません。もし今後ここを見に来てくれた人がいて、間違ってる所があったら指摘してくれるとありがたいです。そしてこれを見てEHL理論を勉強しようという人が万が一いたらその点を理解して頂けると助かります。

では、そんなかんじで次回からEHL理論について書いていきます。更新もいつできるかわからないので御了承をば。
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