第5回 膜厚について(3) Dowson-Higginsonの式 [EHL理論]
EHL理論をいろいろ調べてると、Dowsonという人がよく出てきます。どうもこの人がEHL理論の構築と発展に大きく寄与しているみたいです。今回はこの先生の名前のついたDowson-Higginsonの式についておはなしします。
この式はどんな式なのか最初に簡単に話しますと、前回のErtelとGrubinは2円筒モデルの膜厚を計算するのにいろいろ単純化をして解析解を求めましたが、DowsonとHigginsonはそういった仮定をせずに複雑な連立方程式を数値計算で求め、最終的に2円筒モデルの膜厚を簡単な式で表しました。だから前回の式は多少なりとも現象に合わせこむ部分もあったのですが、今回お話しする式では理論的に接触部の膜厚分布や圧力分布が導き出されたわけです。といっても一部実験式は使用していますが。
で、どんな式を連立したかということなんですが、まずは前回同様、レイノルズ方程式とBarusの式(粘度の圧力による変化式)です。それから圧力により油が多少圧縮されて密度が大きくなるため、実験によって求めた密度-圧力関係式を使います。それが以下の式です。
ρ:高圧時の密度
ρa:常圧密度
あと、Ertel-Grubinの式では膜厚は一定と仮定しましたが、今回は2円筒の弾性変形δから任意のx位置での膜厚hを以下のように仮定します。
あと、第3回の式(3)同様、外力wを油の圧力pで支えているので以下の式が成り立ちます。
これらの式を連立し、数値計算することで最小油膜厚さは以下の形になるらしいです。
これが冒頭で述べたDowson-Higginsonの式です。この式からも荷重の影響は少ないことがわかりますね。で、このやり方で求まる圧力分布と油膜形状は図1のようになります。これを見ると圧力分布はだいたいヘルツの分布に似てますが、入口で少しずつ圧力が増加していることと、出口手前で圧力スパイクと言われているピークがあることがわかります。膜厚はほぼ一定ですが、こちらは出口手前で凹んでる所がありますね。このへんの特徴は実験でも確認できているらしいです。
図1.Dowson-Higginsonによる圧力分布と油膜形状
ちなみにこの中央部の一定膜厚をhcとおくと、hcは以下の式で表せます。
これは自分の勝手なイメージですが、膜厚が荷重の影響を受けにくい理由は、やはり物体の弾性変形と油の粘度上昇じゃないのかなあと思ってます。普通に考えれば力をかければその分油が潰れやすくなって(すごいいい加減な書き方ですが)膜厚は小さくなりそうですが、円筒が弾性変形することで接触面積が大きくなるので思ったほど圧力が上がらないのと、油も圧力を受けて粘度が上がるのでその分だけ持ちこたえるのでは?というふうにイメージしております。そんなかんじですかね?もし詳しい人がこれを見てくれてたら教えて下さると助かります。
さて、ここまで2円筒モデルについてずっと話してきました。もちろん球-球接触や楕円接触などにも理論式が確立されていますが、ここでは触れません。基本的な考え方は一緒だと思うので。
では今回はここまで。膜厚計算の話はこれで終わりです。次回は4つの流体潤滑モードについておはなしします。
この式はどんな式なのか最初に簡単に話しますと、前回のErtelとGrubinは2円筒モデルの膜厚を計算するのにいろいろ単純化をして解析解を求めましたが、DowsonとHigginsonはそういった仮定をせずに複雑な連立方程式を数値計算で求め、最終的に2円筒モデルの膜厚を簡単な式で表しました。だから前回の式は多少なりとも現象に合わせこむ部分もあったのですが、今回お話しする式では理論的に接触部の膜厚分布や圧力分布が導き出されたわけです。といっても一部実験式は使用していますが。
で、どんな式を連立したかということなんですが、まずは前回同様、レイノルズ方程式とBarusの式(粘度の圧力による変化式)です。それから圧力により油が多少圧縮されて密度が大きくなるため、実験によって求めた密度-圧力関係式を使います。それが以下の式です。
ρ:高圧時の密度
ρa:常圧密度
あと、Ertel-Grubinの式では膜厚は一定と仮定しましたが、今回は2円筒の弾性変形δから任意のx位置での膜厚hを以下のように仮定します。
あと、第3回の式(3)同様、外力wを油の圧力pで支えているので以下の式が成り立ちます。
これらの式を連立し、数値計算することで最小油膜厚さは以下の形になるらしいです。
これが冒頭で述べたDowson-Higginsonの式です。この式からも荷重の影響は少ないことがわかりますね。で、このやり方で求まる圧力分布と油膜形状は図1のようになります。これを見ると圧力分布はだいたいヘルツの分布に似てますが、入口で少しずつ圧力が増加していることと、出口手前で圧力スパイクと言われているピークがあることがわかります。膜厚はほぼ一定ですが、こちらは出口手前で凹んでる所がありますね。このへんの特徴は実験でも確認できているらしいです。
図1.Dowson-Higginsonによる圧力分布と油膜形状
ちなみにこの中央部の一定膜厚をhcとおくと、hcは以下の式で表せます。
これは自分の勝手なイメージですが、膜厚が荷重の影響を受けにくい理由は、やはり物体の弾性変形と油の粘度上昇じゃないのかなあと思ってます。普通に考えれば力をかければその分油が潰れやすくなって(すごいいい加減な書き方ですが)膜厚は小さくなりそうですが、円筒が弾性変形することで接触面積が大きくなるので思ったほど圧力が上がらないのと、油も圧力を受けて粘度が上がるのでその分だけ持ちこたえるのでは?というふうにイメージしております。そんなかんじですかね?もし詳しい人がこれを見てくれてたら教えて下さると助かります。
さて、ここまで2円筒モデルについてずっと話してきました。もちろん球-球接触や楕円接触などにも理論式が確立されていますが、ここでは触れません。基本的な考え方は一緒だと思うので。
では今回はここまで。膜厚計算の話はこれで終わりです。次回は4つの流体潤滑モードについておはなしします。
2011-04-23 19:47
nice!(0)
コメント(5)
トラックバック(0)
それにしても日立金属製のSLD-MAGICのトライボロジー特性は凄い。さらにその現象を説明するCCSCモデルはさらに凄い。EHLは潤滑油が摩擦による分解するまでの極限が説明できないがこれは説明可能だ。
部品にしても材料にしても信頼性を勝ち得るためには破壊しなくてはならない。その論法がトライボジーの世界に持ち込まれた感がある。
by フリクションコメンテータ (2015-05-29 20:42)
EHLがなぜ設計に生かせないのかがよく分かった。
要はもっとも設計の重要なポイントが境界潤滑であるのに
中途半端な世界を精密化していた。
その点CCSCモデルは最も問題になる領域を直視して
データのばらつきの原理を示している。今まで実機試験
に合わないとか言われてきたトライボロジストが立ち上が
れる、視点を開発者の博士は提案していると、私は思う。
by トライボロジーの世界の新たなる視点 (2016-01-30 02:00)
日立の社会イノベーション戦略が見えてきた。驚くのはハード面で
あり、ベアリング構造の産業インフラをナノ結晶へ置換し、摩擦損失を30%減らすというものだ。CCSCとかGICとかでてくるが詳くは、いかのURLの特殊鋼の論文を参照されたし。
http://www.hitachi-metals.co.jp/rad/pdf/2017/vol33_r03.pdf
by トライボシステム展望 (2017-03-27 20:54)
流体潤滑もそうだがEHLも、摩擦損失を抜本的に激減させるものにならない。CCSCモデルはダイヤモンド抑制法が充実すれば、摩擦面積を激減させるという従来の設計理論を覆すものになる。今の摺動機械部品はダイヤモンド形成抑制法を知らないので不必要にバカでかいのだと博士は提案しているんじゃないのかな。ところで博士はダイセルに移籍したとのこと。たぶん関連会社のポリプラスチックスのジュラコンを相手材にトライボシステムを設計するつもりだ。
by EHL VS CCSCモデル (2018-06-12 22:32)
ダイセルは他もいいエンジニアリングプラスチックがあるしもともとエンジニアリングプラスチックは金属と比較して強度とか耐熱性に追い抜くストーリーで開発されてきたので摺動性能に大きな未来をおく久保田博士はそういう単純な行動ではないだろう。むしろ樹脂/金属の接合の高度な技術DLAMPに惹かれたのかもしれない。
by 内燃機関ファン (2018-12-17 22:53)