第7回 速度の影響、膜厚まとめ [EHL理論]
これまでEHL条件下での膜厚の話を中心にしてきましたが、今回で一旦膜厚の話に区切りをつけます。
今回はまず、2物体の周速が非常に大きくなった時に膜厚がどうなるかを話します。こんな話をするのは、周速が大きくなると膜厚が理論式と合わなくなるからです。
図1の左側を見てください。これを見ればわかりますが、周速が大きくなると入口付近で油が逆流して渦みたいになるわけですね。で、これまで述べませんでしたが、こういうふうに油自身にせん断力がかかると油が発熱します。これは周速が低くて渦にならない時でもせん断力を受けてるので発熱はあります。ただ通常はそれほど大きくないので特別扱わなくても問題なかったのですが、渦になった場合は発熱の影響が無視できなくなります。自分は油の中で分子同士がぶつかり合って熱が出る状況をイメージしてます。
で、発熱が大きくなると一般的に油の粘度は下がります。そうするとどうなるか。Dowson-Higginsonの式からわかるように、EHL条件下では粘度や周速が大きくなると膜厚は大きくなりますが、温度が上昇すると粘度が小さくなるので膜厚があまり大きくならなくなります。それを図にしたのが図1の右側です。この図だと周速が10m/sを超えると逆に薄くなってますね。
図1.周速の影響
膜厚は目的によっては必ずしも厚い方が良いわけではありませんが、ただあまり薄くなって物体の表面粗さよりも膜厚が小さくなると物体同士が接触してしまい、流体潤滑状態ではなくなってしまいます。つまり表面が摩耗などの損傷を起こしてしまうわけです。なので周速があまり大きい場合には注意が必要なのです。
さて、膜厚に関する話は以上ですが、最後にこれまで話した中で膜厚に関する定性的な内容を簡単にまとめます。
① 接触部は、膜厚が一定となる部分が大半である
② 接触部の出口付近に圧力スパイクと膜厚最小部が存在する
③ 膜厚は接触部入口の油の状態でほぼ決まる
④ 膜厚は荷重の影響をほとんど受けない
⑤ 膜厚は油の粘度や物体の周速が大きいと一般的に厚くなる
⑥ 周速が大きくなると発熱により粘度が低下して膜厚を薄くする要因になる
正直に言いますとまだ理解しきれていない点もありますが、だいたいこんなかんじかと思われます。やはり④が普通の感覚と違う点かなあという気がします。
以上、膜厚に関するおはなしでした。ここからは余談になりますが、自分がEHL理論の勉強を始めたきっかけは、トラクション方式を用いた動力伝達機構の開発を会社で始めることになったからです。なので最終的にほしいのはトラクションドライブの伝達力や動力損失であって、膜厚ではありません。ただ、当然ながらトラクション特性には膜厚も影響してくるし、膜厚に関する話がある程度理解できていないとトラクションは理解できないと思ってます。あと、油に関してこれまであまりに無知だったのでまずは膜厚の内容を把握することでEHL条件下での油がどういう傾向を示すのか感覚的に掴んでおきたかったってのもあります。
そんなわけで次回からは自分にとっての本題である、トラクション特性について書いていきたいと思います。ですがここからはちょっと難しくなってくるのと、自分の勉強する時間が確保できなくなってきました。なのでこれからは更新のペースが今よりもさらに遅くなりそうです。この連休のうちにできるだけ進めておきたいですが、ちょっとどうなるかわかりません。明日更新するかもしれないし、来月になるかもしれません。このへんはご容赦願います。
自分はこの場が初めてのブログになります。今でもわからないことばかりですが、少しずつ慣れてきました。内容が内容だけにこのブログを見てくれる人なんて誰もいないだろうと思ってましたが、履歴を見るとちゃんと来てくれる人がいらっしゃるようで、感謝してますし、励みになります。どうもありがとうございます。更新頻度は良くないですが、今後も付き合って頂けるとうれしいです。
では今回はこれで。今後もよろしくお願いします。
今回はまず、2物体の周速が非常に大きくなった時に膜厚がどうなるかを話します。こんな話をするのは、周速が大きくなると膜厚が理論式と合わなくなるからです。
図1の左側を見てください。これを見ればわかりますが、周速が大きくなると入口付近で油が逆流して渦みたいになるわけですね。で、これまで述べませんでしたが、こういうふうに油自身にせん断力がかかると油が発熱します。これは周速が低くて渦にならない時でもせん断力を受けてるので発熱はあります。ただ通常はそれほど大きくないので特別扱わなくても問題なかったのですが、渦になった場合は発熱の影響が無視できなくなります。自分は油の中で分子同士がぶつかり合って熱が出る状況をイメージしてます。
で、発熱が大きくなると一般的に油の粘度は下がります。そうするとどうなるか。Dowson-Higginsonの式からわかるように、EHL条件下では粘度や周速が大きくなると膜厚は大きくなりますが、温度が上昇すると粘度が小さくなるので膜厚があまり大きくならなくなります。それを図にしたのが図1の右側です。この図だと周速が10m/sを超えると逆に薄くなってますね。
図1.周速の影響
膜厚は目的によっては必ずしも厚い方が良いわけではありませんが、ただあまり薄くなって物体の表面粗さよりも膜厚が小さくなると物体同士が接触してしまい、流体潤滑状態ではなくなってしまいます。つまり表面が摩耗などの損傷を起こしてしまうわけです。なので周速があまり大きい場合には注意が必要なのです。
さて、膜厚に関する話は以上ですが、最後にこれまで話した中で膜厚に関する定性的な内容を簡単にまとめます。
① 接触部は、膜厚が一定となる部分が大半である
② 接触部の出口付近に圧力スパイクと膜厚最小部が存在する
③ 膜厚は接触部入口の油の状態でほぼ決まる
④ 膜厚は荷重の影響をほとんど受けない
⑤ 膜厚は油の粘度や物体の周速が大きいと一般的に厚くなる
⑥ 周速が大きくなると発熱により粘度が低下して膜厚を薄くする要因になる
正直に言いますとまだ理解しきれていない点もありますが、だいたいこんなかんじかと思われます。やはり④が普通の感覚と違う点かなあという気がします。
以上、膜厚に関するおはなしでした。ここからは余談になりますが、自分がEHL理論の勉強を始めたきっかけは、トラクション方式を用いた動力伝達機構の開発を会社で始めることになったからです。なので最終的にほしいのはトラクションドライブの伝達力や動力損失であって、膜厚ではありません。ただ、当然ながらトラクション特性には膜厚も影響してくるし、膜厚に関する話がある程度理解できていないとトラクションは理解できないと思ってます。あと、油に関してこれまであまりに無知だったのでまずは膜厚の内容を把握することでEHL条件下での油がどういう傾向を示すのか感覚的に掴んでおきたかったってのもあります。
そんなわけで次回からは自分にとっての本題である、トラクション特性について書いていきたいと思います。ですがここからはちょっと難しくなってくるのと、自分の勉強する時間が確保できなくなってきました。なのでこれからは更新のペースが今よりもさらに遅くなりそうです。この連休のうちにできるだけ進めておきたいですが、ちょっとどうなるかわかりません。明日更新するかもしれないし、来月になるかもしれません。このへんはご容赦願います。
自分はこの場が初めてのブログになります。今でもわからないことばかりですが、少しずつ慣れてきました。内容が内容だけにこのブログを見てくれる人なんて誰もいないだろうと思ってましたが、履歴を見るとちゃんと来てくれる人がいらっしゃるようで、感謝してますし、励みになります。どうもありがとうございます。更新頻度は良くないですが、今後も付き合って頂けるとうれしいです。
では今回はこれで。今後もよろしくお願いします。
2011-04-30 12:37
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コメント(6)
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とっても難しいけど面白いです。
続きが楽しみ。
ところで、発熱による粘度の低下を高圧時の粘度上昇で補うことは可能?
仮に出来たとしても、その高い圧力を実現することが難しいのかな・・・
by ponta (2011-04-30 13:34)
コメントありがとうございます!うれしいなあ。
ですが質問に答えられるほど熟知してない...。
なので推測になりますが、膜厚に対しては圧力は影響しないので不可能じゃないかと思います。
圧を上げても接触部入口付近の状態は変化しないんじゃないかな。たぶん。
ただしトラクション力には影響しそうですね。
by Q (2011-04-30 23:35)
トラクション、高圧粘度物性でしたら、出光に相談されることをお薦めします。滑らない夢のオイルを開発した会社で、NHKのプロジェクトⅩの第1回に登場しました。日産のエクストロイダルCVT開発に関与しています。
by telmaehara (2011-05-03 20:03)
コメントありがとうございます。
トラクションドライブを使用する限り、すべりは避けられないと思っておりました。さすが出光ですね。
情報ありがとうございました。
by Q (2011-05-04 10:15)
毎回楽しく拝見しています。
知っていたら教えてくだだい。
トラクションオイルって凄い特徴があるのはわかったのですが、その用途はCVTのみなのですか?
それから、CVTって色々な種類があると思うのですが、金属ベルトを使ったCVT(最近の車で使われている)の駆動は、フリクション?それともトラクション?
では、今後の展開を楽しみにしています。
by ponta (2011-05-08 09:50)
コメントありがとうございます。励みになります。
私もあまり詳しいわけではありませんが、CVT以外のトラクションオイルの用途については、以下のように車椅子に使われたりしてます。
http://www.idemitsu.co.jp/lube/topics/fire_service/cvt.html
あとは遊星ローラでしょうか。どちらも歯車をローラに置き換えたような構造ですね。音が静かなのが一番のメリットかな?
金属ベルトCVTはまったく別の専用オイルを使っているようです。
http://www.juntsu.co.jp/qa/qa0219.html
トラクションオイルってほんとすごい油だと思うんですが、用途があまり多くないのが残念に思います。
by Q (2011-05-08 16:01)