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第9回 トラクション特性について [EHL理論]

さて、前回はトラクションという語句の説明だけで終わってしまいました。そしてEHLのブログなのに油のこと何も書かなかったことにも気がつきました。なので今回は油に絡めてトラクションのおはなしをしていきます。

まず、EHL理論が必要になる状況ですが、自分がすぐ思いつくのは

① エンジンのカムとフォロア
② 転がり軸受け
③ トラクション式CVT
④ 遊星ローラ

あたりです。これらをトラクションの観点から分けると、①ではトラクション力は動かしたい方と違う向きに働くので、トラクション力は邪魔でしかありません。②ではトラクション力があまり小さいと中のボールやころが接触面で滑ってしまってうまく転がらなくなる可能性があります。ですが逆にトラクション力が大きくなりすぎると動力損失の原因となるので、ちゃんと転がる程度のトラクション力があればよいです。で、③と④ですが、これはもうトラクション力で動力を伝達するものなのでトラクション力は必須です。じゃないと機構が成り立ちません。

なのでこれらの用途に応じて油を使い分ける必要があるのです。①ではとにかく摩擦力が少なく潤滑性の良い油を使い、③や④ではトラクション力をなるべく稼ぐためにトラクションオイルと言われる専用の油を使います。②はその中間かな?すいませんよくわかりません。

で、油のトラクション特性なんですが、定性的には図1のようになります。油の種類によって曲線A、B、Cのようにいろいろなパターンがありますが、共通するのは 接触面のすべりによってトラクション力が発生する ということです。この理由はちょっとややこしいので多くは述べませんが、ここでは油の持つ粘性と弾性によるものとだけ書いておきます。ですが大事な部分なのでまた後日詳しくお話します。

で、図1に戻りますと、例えば先程の①なんかは曲線Cみたいなのが良いんじゃないかと思います。で、③と④は曲線Aが理想です。なぜなら「すべり」は動力損失に直接つながる要因なので、少ないすべりで大きなトラクション力を出せる曲線Aの方が都合が良いわけです。なので一般的に③や④に使われるトラクションオイルと言われる油は曲線Aを狙って作られているはずです。

09_01_伝達力.jpg
図1.伝達力

まあ、単純にトラクション力がほしいだけなら油をなくして直接接触している方がいいんでしょうが、そんなことしたら接触部が摩耗してすぐ使い物にならなくなるんでしょうね。余談ですが、なんかいろいろこういうの調べてると油ってすごいなあって思います。本来は潤滑に使うものなのに、動力伝達にも使えるんですからね。やり方次第で真逆の使い方ができるってすごいなあと思うんです。これも先人達の研究や開発の賜物なのでしょうね。

で、次は図2を見て下さい。図1と似た形ですが、今度は横軸がすべり率(Δu/uバー)、縦軸がトラクション係数(μ)となっています。以下は各記号の説明です。

 Δu:すべり量 (前回の図1で言うと、U1-U2、つまり2物体の周速差)
 uバー:平均周速 (前回の図1で言うと、U1とU2の平均値)
 μ:トラクション係数[=駆動力/押し付け力] (前回の図1で言うと、F/W)

09_02_トラクション曲線.jpg
図2.トラクション曲線

すべり率は2物体の平均周速に対する2物体間のすべり量の割合で、なんとなくわかると思います。そして駆動力Fは、F=μWで決まるわけですね。で、μは油の物性値で、油の種類や状態によって変わってきますが、すべり率に対しては図2のような傾向を示します。この図はEHLの教科書を見てると必ず出てきますね。もちろん③や④ではμは大きい方が良いです。

で、この図で言いたいことが2つあります。1つはこのトラクション曲線の形で、すべり率が微小な時はすべり率とトラクション係数は比例します。これが線形領域で、すべり率が大きくなると次第にこの比例関係が崩れてきて非線形領域になり、μ(トラクション係数)はすべり率に対して一定値μmaxに向かいます。で、さらにすべり率が大きくなると熱領域となり、今後はμは下がってしまいます。最後で熱領域と言う理由ですが、この領域ではすべりが大きくなりすぎて油の発熱が無視できなくなり、温度上昇によってμが下がってしまう領域だからです。伝達力を稼ぎたいなら非線形領域のμmaxあたりを使うのがよろしいかと思います。

そしてもう1つの言いたいことですが、図2にでかい矢印があります。これは図にも説明がありますが、周速が増大したり、面圧が小さかったり、高温になったりするとトラクション特性は矢印のように変化します。まあここはなんとなくイメージできるんじゃないかと思います。なので伝達力を稼ぎたいなら、ゆっくり回して、押し付けを強くして、しょっちゅう冷やすと油は踏ん張りが効くわけです。まあ、冷やしすぎも良くないのですが。

余談ですが、自分はどっちかっていうと機械系や材料系の人間なので、こういう図を見ると材料の応力-ひずみ曲線を想像してしまいます。なんかそっくりだと思いません?


というわけで、今回はここまでです。前回と合わせて教科書1ページにもならん内容をくどくど書いてしまったので、最後に2回分の内容をさらっとまとめてみます。

① トラクション力とは、接触する片方の物体が相手を牽引する力のことである。
② EHL条件下では、トラクション力は2物体の周速が異なる時(すべりがある時)に発生し、周速の大きい方から小さい方へ伝達する。
③ トラクション力Fはトラクション係数μと押し付け力Wの積で求められる(F=μW)。
④ トラクション係数μは油固有の物性値であり、図2のようにすべり率の値によって「線形領域」「非線形領域」「熱領域」に分かれる。
⑤ トラクション係数μは、周速が増大し、面圧が低下し、温度が上昇すると小さくなる。
⑥ トラクションドライブのCVTや遊星ローラでは、μが大きいほど効率良く動力伝達できる。

まとめるとだいたいこんなとこでしょうかねえ。次回からは油のせん断特性のおはなしになりますが、こっからちょっと難しくなるので自分の理解のためにもなるべく丁寧にやっていこうと思ってます。とりあえず次回は先ほど少し話した、油が持つ粘性と弾性のことからおはなししていきます。

でわ。今回もご覧いただきありがとうございました。
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