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第6回 4つの流体潤滑モード [EHL理論]

前回までにEHL状態時の膜厚を求めるのにどんな計算をしてきたのか簡単にお話ししました。今回はEHL以外の膜厚計算式についても触れてみたいと思います。

くどいですが、EHL理論は従来の流体潤滑理論に固体の弾性変形と圧力による油粘度上昇の2点を取り入れたものと何度も述べました。これは暗黙のうちに鉄などの硬い2物体を押しつける場合をイメージしておりましたが、例えば樹脂のような比較的軟らかい物体だと、それほど圧力をかけなくても簡単に変形します。つまり、固体の弾性変形は考慮しないといけないけど圧力による油粘度上昇は考えなくてよい状況が起こり得るわけです。で、このような状態を「ソフトEHL」と言い、今まで考えていた状態は「ハードEHL」と言います。

また、この他にも固体の弾性変形はほとんどなくて粘度のみ変化する状態と、変形も粘度変化もない状態(普通の流体潤滑ですね)がありまして、全部合わせると4つの状態があるわけです。ここまでを簡単にまとめますと、

① 等粘度-剛体領域(IR領域) ←流体潤滑
② 高圧粘度-剛体領域(PR領域)
③ 等粘度-弾性体領域(IE領域) ←ソフトEHL
④ 高圧粘度-弾性体領域(PE領域) ←ハードEHL

と分けることができます。これがタイトルの「4つの流体潤滑モード」です。第1回で話した内容は①で、第2回から前回まで話してた内容は④になりますね。で、先人たちの努力により、各領域の膜厚計算式がそれぞれ提唱されています。それは表1のように無次元数を定義すると、表2のように表せます。

表1,2について、ちょっと補足します。まず表1ですが、無次元表示にも3パターンありまして、まずDowson-HigginsonのH,W,G,Uによる無次元表示は以前述べたのですぐわかると思います。こうやってまとめた方が各パラメータの影響度が一目でわかって便利ですよね?このような無次元化を他の人も試みており、それがBlok-MoesのM,Lや、Greenwood-Johnsonのg1~g4に相当するわけです。

で、それぞれの無次元数で膜厚を表現したのが表2になります。この表を使えば、自分の知りたい状態がどの流体潤滑モードかさえわかれば最小膜厚はすぐに計算できるわけです。じゃあどうやってモードを調べるかですが、それには図1を使います。図1は潤滑領域図と言われているもので、これを使えばGreenwood-Johnsonの決めた無次元数であるg1とg3の値がわかれば、自分の知りたい状態がどの潤滑モードになるのかがわかります。

表1.無次元表示(線接触の場合)
06_T01_無次元式.jpg

表2.最小膜厚計算式(線接触の場合)
06_T02_膜厚計算式.jpg

06_01_潤滑領域図.jpg
図1.潤滑領域図(線接触の場合)

実際に膜厚を求める手順を以下にまとめます。

① g1とg3を計算する
② 図1からどの潤滑モードになるのかを調べる
③ 表2から膜厚を計算する

こんだけですね。膜厚は先人達のおかげで式が確立されてるのでラクに出せます。

ところで図1を見ると、PE領域、すなわちハードEHL領域が少ないように感じます。これについては、じつはPR領域の中にEHL領域と似たような特性を示す領域があるらしく、そのへんもEHL領域に含めるべきという指摘もあるようです。なので、その点を考慮した潤滑領域図も提唱されているみたいです。

そもそもPR領域ってのは、物体の変形は考えなくていいけど圧力による油の粘度変化は考えないといけない領域なんですよね。それってどういう状況だとそうなるんでしょうね?よっぽど硬い物体か、接触半径と荷重がめちゃくちゃ大きい場合ですかね?ちょっとこのへんはイメージしにくいです。

ところでいまさらですが、今回掲示した図や表も全部2円筒接触のような線接触のものです。点接触の方が式は複雑ですが、基本的な考え方は同じはずです。

では今回はこのへんで。次回で膜厚の話は終わりにする予定です。

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CCSCモデルウォッチャー

 そういうこと。金属って引張ったとき壊れる強度と擦りつけたとき壊れる強度は、後者が圧倒的に低いそうだ。これは水素脆性で説明され、時の水素ブームによって後押しされた。しかし、普通機械は潤滑油でこすられ、油ってのは分子間がスカスカだから大気が入ってきちゃう状態が産業界が一般的に使っているモード。水素より酸素が多いわけ。
 だったら酸素が強度劣化の原因かというと、金属の表面に酸化膜を形成させるむしろ良い働きをする。じゃあ炭素?グラファイトは潤滑性があって無害じゃないのというところでとどまっていたわけだ。そこにCCSCモデルが現れて、カーボン粒子はナノレベルだとダイヤモンド構造が熱力学的に安定だからこういった境界潤滑モード(トライボロジー用語)では、ダイヤモンドが機械損傷の真の起点で、それによって自動車のリコールが起こったり、劣化したエンジンオイルを変えないといけなかったり、もっとも社会的不利益をもたらしているのが機械のコンパクトの阻害要因となっていることなんだ。
 鉄道、船舶、自動車、バイク、航空機、発電機、またその内部に潜むエンジンやパワートレイン、コンプレッサーなどなどのユニットの機械のサイズは何で決まってるのかということになる。①は幾何学的制約(これは人間の乗れない小さなサイズで効率のいい自動車を作っても意味がないというもの。)②強度的制約(これは大学でもものすごく力をいれて行う材料力学で、力を支える部材の断面が小さすぎると機械が壊れますという意味。)③がいま議論している機械部品は擦ると異常に低い応力で破壊するということ。
 ①、②は明確に意識され設計と呼ばれる段階にまで整備されているが、③は産業界の意向も含んだ学派的争いもあって、見解が統一化しにくく、エンジニアは各機械、各部品ごとにバラバラの真実が眠っていてその真実を正確に示す実機試験のみが神であるという。設計とは程遠い、旧約聖書のバベルの塔を思い起こすような状況が機械工学というなかで起こっている。科学は真理を追究するものだが、工学はあらゆる科学を使ってブラックボックスでもいいので実用的な機械を作ることを目標としているところからそういうことが起こってしまう。工学者の主張は「一般理論からこのケースの最適解は導き出せるのか。」と。それに対する逆襲が境界潤滑モードにおけるCCSCモデルなのではなかろうか?
 これが、真実であれば巨額の富が発生するのは間違いないのはたしか。
by CCSCモデルウォッチャー (2017-05-17 01:30) 

地球環境直球勝負

島根大学の客員教授である久保田邦親博士らが境界潤滑の原理をついに解明。名称は炭素結晶の競合モデル/CCSCモデル「通称、ナノダイヤモンド理論」は開発合金Xの高面圧摺動特性を説明できるだけでなく、その他の境界潤滑現象にかかわる広い説明が可能な本質的理論で、更なる機械の高性能化に展望が開かれたとする識者もある。幅広い分野に応用でき今後48Vハイブリッドエンジンのコンパクト化(ピストンピンなど)の開発指針となってゆくことも期待されている。
by 地球環境直球勝負 (2017-07-17 10:53) 

姫路通信

 久保田博士はダイセルの首席研究員として特機開発や自動車部品のグローバル展開をやるとのこと。つまり樹脂と特殊鋼の組み合わせのトライボシステム開発をしているのではないかと考えられます。
by 姫路通信 (2017-11-18 23:59) 

ポリマーサイエンティスト

 スタンダードのトライボシステムしてSLD-MAGICの相手材はポリプラスチックス社のジュラコンがいいらしいですよ。
by ポリマーサイエンティスト (2018-05-31 06:42) 

機械工学系学生

 それにしても人工知能の基礎理論である関数接合論よりペトロフとクーロン則を接合しストライベック線図が連続関数として生成可能であることを博士のresearchgateで見つけたが、面白かった。
by 機械工学系学生 (2018-06-28 17:19) 

某大学生

 ああそれは材料物理数学再武装ってやつですね。EHLがなんかバカっぽく見えました。
by 某大学生 (2018-07-28 21:33) 

エンジン屋

CCSCモデルは日本鉄鋼協会で聞きました。二重擬三元系状態図で機械の摩擦挙動を説明できるなんて目の付け所がちがいますね。
by エンジン屋 (2018-10-02 10:39) 

世紀の夢境界潤滑理論

 内燃機関シンポジウムで聞きました。画期的すぎてその道の権威の方々の顎が外れて、逆に質問が少なかった。
by 世紀の夢境界潤滑理論 (2019-01-02 01:18) 

自動車世界戦争ファン

 それって「境界潤滑現象の本性」The Nature of Boundary Lubrication Phenomenonですね。このような講演は今まで聞いたこともないのも確か。
by 自動車世界戦争ファン (2019-01-03 21:02) 

播磨謙一

 これはアニメの例えになるが地球発の高速を突破した宇宙戦艦ヤマトに匹敵する業績だ。
by 播磨謙一 (2019-04-08 20:58) 

出光ラマン分光ファン

 業界団体に屈しない博士に拍手。
by 出光ラマン分光ファン (2019-05-31 20:07) 

放射光ファン

 ダイセルの新たな経営戦略に脱帽。
by 放射光ファン (2019-06-08 22:49) 

日本能率協会

 久保田博士の誠実な美鋼つくりはたたら製鉄と並んでこれもまたぐっとくる話がありそうですね。
by 日本能率協会 (2019-06-21 23:14) 

京大学生

 とにかく信州大学出身者はこの分野ではアウトだろうが。
by 京大学生 (2019-06-29 20:07) 

地球環境科学技術立国ファン

 兵庫県立大学あたりがCCSCモデルと親和性が高そうですね。
by 地球環境科学技術立国ファン (2019-10-13 21:56) 

p

このグラフの出展が気になったので調べてみました.
おそらくトライボロジー 著者:山本 雄二,兼田 楨宏です
by p (2020-12-12 17:53) 

伝説のストライベック曲線

この方はむからそうなんだけどやっている背中をみせるんだよね。ストライベック線図の取り方知ってる?フラットオンフラットのピンオンディスクでどぶ付けして高速回転ができる試験機で取れるんだがいうは易し、実際はやってみるととてもばらつくんだ。だから生データのストライベック曲線ってあんまり見たことないだろ?フラットオンフラットすなわち平行面同士の理想的なあたりをつけるのがいかに難しいか。しかしやってのける。以下の報告は長いこと私を悩ませたが一応は自分でストライベック線図のデータを取れるようになった。実験技術はとても重要。

久保田邦親、藤田悦夫:高硬度黒鉛鋼の組織に及ぼすAl, Cuの影響 : 摩擦特性に及ぼす黒鉛分布の影響
材料とプロセス : 日本鉄鋼協会講演論文集 = Current advances in materials and processes : report of the ISIJ meeting 16 (6), 1525-, 2003-09-01
by 伝説のストライベック曲線 (2023-06-16 23:36) 

農業機械関係

いまでいうテクスチャー(テクスチャリング)ですね。
by 農業機械関係 (2023-06-18 20:16) 

グリーン経済成長

奇跡の鉄の発明家は実は、トライボロジー試験の極意を知った最高の実験技術者でもあったわけですね。
by グリーン経済成長 (2023-06-19 10:34) 

豊洲伯太

日立金属ってプロテリアルに名称かわったんですね。
by 豊洲伯太 (2023-11-04 05:28) 

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