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第2回 なぜEHL理論が必要になったのか? [EHL理論]

前回は流体潤滑理論の話を簡単にしました。なぜこんな話をしたのかと言うと、EHL理論は流体潤滑理論の一部だからです。なので2物体間の油膜を扱う点ではどちらも同じです。ただし一般的に言われている流体潤滑理論は「レイノルズ方程式」を基本として論理展開しております。しかし前回も触れましたが、レイノルズ方程式はいくつかの仮定のもとに成り立つ式なわけで、この仮定が成り立たない状況も世の中には存在するわけですね。そんな中で登場してきたのがEHL理論なわけです。

じゃあEHL理論は具体的にどんな状況を扱うものなんだということですが、具体例としては転がり軸受けのボールと内外輪やころと内外輪の接触面なんかがそうです。あとは歯車のかみ合いなんかもそうです。これらに共通するのは接触面の面圧が非常に大きいことです。なぜなら接触面は点あたりや線あたりに近い状況なので、外力がそれほど大きくなくても接触面はものすごい面圧になっているわけです。

このような状況で従来の流体潤滑理論を適用して油膜の厚さを算出したら、面圧が大きいおかげで膜厚はものすごく小さくなり、一般的な表面粗さだと膜厚の方が小さくなってしまうそうです。つまり2物体は接触してしまいます。それってつまり流体潤滑状態ではないってことですよね?油膜が不充分なので物体表面は摩耗などの損傷をおこしてしまうはずです。

しかし実際に軸受けや歯車を長時間使用しても接触面が荒れている様子はなく、表面はきれいそのものです。この矛盾をどうやって説明すればいいのかという難題に対して賢い先人が考えたのが、

流体潤滑理論に「物体の弾性変形」と「潤滑油の圧力による粘度変化」を取り入れる

というものでした。ここがEHL理論のおおもとの考え方です。この2つの考えを取り入れることで先の矛盾が解決されたとのことです。具体的に書くと、転がり軸受けや歯車のかみ合いにおいても流体潤滑状態を維持する充分な膜厚が理論的に導き出せたのです。

ここでちょっと前回の話と絡めると、流体潤滑理論ではいくつかの前提条件がありました。先ほどEHL下ではこれが成り立たないと述べましたが、具体的には前回の①と②が成り立たなくなります。このうち②はすぐわかると思います。なぜならさっき圧力による粘度変化を取り入れるって書いたから。じつはEHL下では温度による粘度変化も影響してくるのですがそれはまた後日書きたいと思います。①についてもまた後日。

ちなみにEHLとはElasto-Hydrodynamic-Lubricationの略で、日本語で「弾性流体潤滑」と言います。なのでEHL理論は「弾性流体潤滑理論」となります。

では今回はこのへんで。次回はEHL下での膜厚についてお話します。
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エンジン技術者

 実際はだれもEHLなんて機械設計に使っていませんよ。わたしが馬鹿なんでしょうかね。
by エンジン技術者 (2015-11-03 22:38) 

パワートレイン技術者

 いえいえ、トライボロジーの旗を高々と掲げながら、その最前線の野戦病院の現場ではギア、カム、タペット、シムなどの機械部品の戦病者が運び込まれて対応をする場合、潤滑理論ではなく損傷理論を希求します。
 戦場では、なかなか人を信用できなくなります。それが油屋、材料屋、機械設計屋となってよりどころが学者なんですが、EHLは最も胡散臭い部類の研究だと思います。
 
by パワートレイン技術者 (2015-11-08 21:00) 

横浜カモメ

 私の意見では、EHLはペットのように飼いならしておけばよく緊急救命室ERのような場合役に立たないが、それでも英国がトライボロジーという最初の旗を掲げたのでそれに敬意を表してかわいがろうよ。だって流体潤滑理論を突き詰めていくとレイノルズ方程式ではなくゾンマーフェルト(独)になってしまってトライボロジーという最初の学際学の発生に傷がつく。学際学の提唱をしたイギリスに敬意を表しつつ、日本はさらに前進するのである。
by 横浜カモメ (2016-08-14 20:58) 

老トライボロジー学者

 たしかに、早稲田大学 高橋教授(当時)図説基礎工学対話であのステファンティモシェンコに対して「教育は犯罪的である」といっていた章を思い出した。ティモシェンコはFEMの無い時代、結論を出せない3次元弾性論を思いっきり簡略化し、どうせ今の時代、鉄鋼が増産され多くのビルが建ち始め世界の各都市が摩天楼化を目指すようになっていく。建築物はどうせビーム(梁)とシェル(板or膜)で構成されるのだがら、2次元論へ簡略化を行い、ティモシェンコの教科書を読むと筆算で設計が可能になり「材料力学」が誕生し、「工学」が出来上がった。これで、ヨーロッパ大陸の学者から馬鹿にされないような新たな学問体系が完成したと考えた。しかしヨーロッパは、エジソンは町の発明家だと揶揄し、米国人はノーベル賞を目指すようになり、これがノーベル賞の世界的権威を確立させたといってもいい。
 英国はニュートンを中心とする近代科学体系の頂点だとみなされていたが、第二次世界対戦で最も基礎的国力が減退した国家になり、それでも学問的権威を保つため、米国のコンピュータの発展に対抗し、流体力学で無次元数を駆使しようということになり、その流れでトライボロジーが出来たとみるほうが自然だ。というように圧倒的に計算パワーの欠乏していた時代はこのように展開されていたのだ。それでも今もなかなか進まない学際学を衰えた国力の中で考えた英国もすごいし、圧倒的工業生産性の向上の中、米国は理学の中から工学を独立させた。つまり(機械)工学=学際自然科学は結果的同じ機能を果たしていたのではないかと考える。
 でも英国は姑息だ。学校では破壊力学はグリフィス(英国)が破壊力学の原点のように教えるが、具体的には先述のティモシェンコの材料力学が示す、応力と組み合わせで回答が導けるようにした米国のG.R.Irwinであることを付記しておく。
by 老トライボロジー学者 (2016-08-22 22:06) 

バラツキの意味の哲学者

 トライボロジー精神なるものを訴える大学教授の記事をみたが、トライボロジーで最も自信をなくすのがデータのバラツキ。それをひた隠しにしている罪悪感が人格を歪めてゆく。それは横浜では教えない。安来が教えてくれた。
by バラツキの意味の哲学者 (2016-08-27 00:54) 

トライボロジーカモメ

 人を超えた存在、そのようなものとの戦いをアナポリスでは教えていなかったな。
by トライボロジーカモメ (2016-09-11 15:31) 

ブルーリボン

 日野自動車の最新のクリーンディーゼルのハイブリッド二段過給エンジンの開発中に、ピストンピンがカジリ(凝着、焼付き)を引き起こし、開発が暗礁に乗り上げていた。そのとき、日立金属の博士が独自の理論とともに、新合金の売り込みにきた。これが世にいう「炭素結晶の競合(CCSC)モデル」であり、先に書き込みがあったSLD-MAGIC(S-MAGIC)を使ってピストンピンを作成したところ、耐久性能をクリアーしたとのこと。

by ブルーリボン (2016-09-12 19:23) 

児玉

 窒化キチガイには居場所はないということですね。
by 児玉 (2016-11-12 22:38) 

CCSCモデルファン

 半世紀近くトライボロジストの夢であった境界潤滑の原理が解明されたことを祝福します。
by CCSCモデルファン (2016-12-18 04:41) 

金型職人

 それはEHLではなく日立金属、冶金研究所の久保田博士らのCCSCモデルの話ですね。
by 金型職人 (2016-12-30 19:52) 

トライボシステム展望

 やっぱり産業機械の国の競争優位性は境界潤滑をどう制御するかにかかっていて
ドイツ車のダウンサイジングの嵐も、結局ピストンピンにDLCだった。しかしこれは違う。潤滑システムを見直せと言っている。自分の担当の部品だけに固執して表面硬度
をガンガン上げて、相手材を破壊したり、循環システム全体にナノダイヤをまき散らすのは良くないといっているのだ。つまりドイツ方式の部分最適化ではなく全体でドイツを上回るエンジンを作れる展望を示しているのだと思う。
by トライボシステム展望 (2017-03-21 01:58) 

低フリクション

内燃機関シンポジウムなどでも盛り上がっていましたね。
by 低フリクション (2017-06-07 20:29) 

八雲軸受

カルロスゴーン退任の引き金になったとの噂も。
by 八雲軸受 (2017-09-27 20:54) 

ナノベアリングファン

 久保田博士によると、EHLよりもいい考えを教えてもらいました。それが関数接合論になりますが、この発展形がいま流行りの人工知能(AI)ということになります。これにより、クーロン則とペトロフの式を接合するとストライベック線図が出来上がるというものです。
by ナノベアリングファン (2018-03-30 19:53) 

お名前(必須)

 まあEHLは何の設計への寄与がないばかりか変な思い込みを次世代に垂れ流すタグチメソッドもそうだったがそれっぽい迷路的な理論を流布していそう。科学技術の信頼性に関するクオリティーをマスメディアは9.11以降たたき続けてきたのは、体制だけで科学技技術の最先端の専門家が登場しないたたき方に終始した。
 そういう歪な報道により真の科学技術の限界と可能性をクリアーにできないメディアの嘘つきが政府以前に問われている。なぜマスメディアはお祭りに引き込まれて、私たちの生き方の本質にかかわる危機の可能性を勘違いされやすい報道の仕方になり、どちらかというと議論が継続しない方向に報道されがちなのではないか?それこそ朝日新聞の偏狭主義によって、報道は理念を持たない方がいいということにされてしまっているが、それこそ朝日新聞の思うつぼである。伝統芸能を擁護するポーズをとりながら、今も日本の力を崩壊させようとする方に企みがあるのは残念だ。
by お名前(必須) (2018-05-04 23:01) 

特殊鋼ロマン人

 久保田博士なら日本刀にも造詣が深く、出雲の神話や考古学の虚実もしり、今や姫路播磨周辺で存在感を示す方で、かつて流行ったNHKのプロジェクトXにも出演したほどのたたら製鉄に関する造詣が深い方だと聞いています。
by 特殊鋼ロマン人 (2018-05-04 23:28) 

播磨スサノオ

 博士は播磨にあるダイセルに活動の中心を移していますが、日本刀の性能に関し科学技術的科学技術的拡大を目指すようなアプローチがありますね。博士の提唱するトライボシステムの概念が間違った日本刀ゴシップに歯止めをかけるものとして支持しております。
by 播磨スサノオ (2018-06-03 00:02) 

井上謙一

 二重擬三元系状態図のインパクトは最強だ。
by 井上謙一 (2018-09-29 01:14) 

統計物理

 おれは関数接合論の視座が最強だと思うが。
by 統計物理 (2018-12-07 03:22) 

人工知能研究者

 とにかくスリーボンドの社長は土下座だな。
by 人工知能研究者 (2018-12-09 21:39) 

トライボロジー研究者

 CCSCモデルによるとEHL研究者は土下座ものだわな。
by トライボロジー研究者 (2018-12-20 20:48) 

良識派でありたいトライボロジスト

 そういうものでもない群盲象を撫でる的状況で特定の学派に罪を押し付けてはならない。しかし過ちは即刻認めないといけないような気がする。
by 良識派でありたいトライボロジスト (2018-12-31 22:47) 

ブランドサル

 しかしJ-Stageの検索トップちょっとバカっぽくない?
by ブランドサル (2019-01-02 00:17) 

特殊鋼関係

 とにかく境界潤滑関連のトライボロジーは特に自動車の内燃機関に注がれる大変重要な人類の技術なので、カルロスゴーンは無茶苦茶にかき回さないでほしい。
by 特殊鋼関係 (2019-01-10 21:13) 

自動車世界戦争ファン

 というか、自動車業界における米・中・欧の日本包囲網を一気に壊滅させる理論とお見受けしました。
by 自動車世界戦争ファン (2019-01-11 20:39) 

ジェットストリーム

シンプルなモデルで多様な境界潤滑特性を説明できる理論を私は他に知らない。
by ジェットストリーム (2019-01-12 20:35) 

トライボロジー研究者

 久保田博士、どっかで作戦会議を開いてくれないかな~。
by トライボロジー研究者 (2019-02-03 00:51) 

マリエヤシロ

 播磨で実験が忙しいと聞いたのでのでそっちに行ったら?
by マリエヤシロ (2019-05-11 22:52) 

ベリーズ工房ファン

 それにしてもプラントメンテナンスへのラマン分光法応用は進めるべきでは?
by ベリーズ工房ファン (2019-05-29 18:21) 

観測員

 戦艦出光、大破炎上中。
by 観測員 (2019-05-31 20:54) 

大本営

 それでは中華北京を井上謙一艦隊に任せるしかないな。司令官がガンダム好きで多少不安だが。
by 大本営 (2019-06-15 00:10) 

日本製鉄

それよりも、博士号をとった日本触媒の「炎の経営者」であるヤタガイ社長がいいのでは。
  
by 日本製鉄 (2019-06-29 22:10) 

戦艦三菱

 日本マリンエンジニアリング学会が正当な英国の見解をもってそう。
by 戦艦三菱 (2019-07-31 22:02) 

某技術士

 まあそれにしても久保田博士の境界潤滑理論CCSCモデルは画期的としか言いようがない。
by 某技術士 (2019-08-17 00:22) 

ダイヤモンドエンジニアリング

 京大の平山教授も絶賛しておりました。
by ダイヤモンドエンジニアリング (2019-10-08 19:19) 

エキソエレクトロン

HONDAのエンジニアでピストンピンに詳しい方を思い出します。
by エキソエレクトロン (2023-05-09 16:21) 

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