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第11回 Maxwellモデルとデボラ数 [EHL理論]

前回の後半部分で、油には粘性以外に弾性の性質も備えており、トラクション特性を知るにはこれらを両方とも考慮する必要があることを話しました。今回はこの粘弾性モデルで使われるMaxwellモデルのおはなしをします。

振動なんかに多少なりとも関わった人にはなじみ深いと思いますが、図1のようなスプリングやダッシュポットを使って力学モデルを表すことがよくあります。

11_01_弾性モデルと粘性モデル.jpg
図1.弾性モデルと粘性モデル

弾性と粘性両方を持った油の性質をこれらの絵で表す時、図2のような2パターンが考えられますが、今回のような液体の粘弾性的性質を表すのには図2左側のMaxwellモデルを使うらしいです。

11_02_粘弾性モデル.jpg
図2.粘弾性モデル

で、このMaxwellモデルを引っ張った時のひずみ速度γドットは以下のようになります。
11_(1).jpg
添え字のeとvは弾性成分と粘性成分を表しております。Gは油のせん断弾性係数です。前回話したEyringモデルはここでは考慮してません。

式(1)をτについて解いて接触面で積分すればトラクション力が求まるわけですが、その前にこのMaxwellモデルでひずみγを一定に保持した場合(γドット=0)について考えてみます。初期条件としてt=0の時にτ=τ*とすると、式(1)は
11_(2).jpg
となります。これを図示すると図3のようになります。何が言いたいかというと、油にひずみ速度を与えずにほかっとくと、せん断応力はどんどん小さくなっていくということです。このことを緩和現象といいまして、η/Gを緩和時間といいます。緩和時間はせん断応力τの値が1/eになるまでの時間です。

11_03_緩和現象.jpg
図3.緩和現象

一方で、油が2物体の接触面入口から出口まで通過するのに要する時間を求めます。図4のように接触面があるとすると、-bからbを周速uで通過するので、通過時間は2b/uとなりますね。これは簡単です。

11_04_接触面.jpg
図4.接触面

ここで緩和時間η/Gを通過時間2b/uで割った値をデボラ数と名付けます。デボラ数Dは以下のように表せます。
11_(3).jpg

ここまで脈絡なくいろいろ書きましたが、ようはデボラ数の話をしたかったのです。ここまでの話から、例えばデボラ数が1だったら、接触面出口のせん断応力は接触面入口に比べて1/eの値まで落ちることがわかります。デボラ数が1より大きければせん断応力は接触面出口でもあまり落ちず、逆に1より小さければ1/e以下まで落ちることもわかるかと思います。つまりデボラ数が大きい方が緩和現象の影響を受けにくいということですね。

ところでこの緩和現象ですが、これって粘性の影響によるものだと思いませんか?弾性ならひずみ一定で応力が下がることはないので、少なくとも弾性の影響でないし、粘性はひずみ速度がないと応力が出ないことは式からもわかります。つまり、デボラ数は弾性成分の影響度の大きさを示しております。

この話は式(1)を以下のように表してみることでもわかるかと思います。
11_(4).jpg
右辺第1項が弾性成分、第2項が粘性成分なので、この式からもデボラ数が弾性成分の影響度に直接関わることがわかります。

このへんの粘性、弾性の影響度とデボラ数の関係を模式的に表したのが図5です。これを見ると、D≦0.1でほぼ粘性、D≧10でほぼ弾性、その間は粘弾性とのことです。このへんの値は文献によってまちまちみたいなので一概にはいえませんが、だいたいそんなイメージでよいかと思います。

11_05_デボラ数と粘弾性の関係.jpg
図5.デボラ数と粘弾性の関係

ところで、EHL状態のように接触面にすごい面圧がかかっている時、デボラ数は一体どうなるのでしょう?それにはまず式(3)を見て下さい。面圧が上がると粘度ηは指数関数的に増加することは第4回の式(1)で話しました。それに対してせん断弾性係数Gは圧力に対して比例するらしいです。接触半幅bも大きくなるはずですが粘度の上昇っぷりには到底かなわないと思われます。なので圧力が大きくなるとデボラ数は大きくなり、弾性が支配的になってきます。EHL状態では少なくとも粘弾性として扱う必要はあるようです。

では今回はここまで。次回は弾性についてもう少し詳しくおはなしします。

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