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第12回 ガラス転移について [EHL理論]

前回までのはなしで、油には粘性と弾性の性質を持っておりまして、トラクションを知るには両方を考慮する必要があることを述べました。また、デボラ数で弾性の影響度がわかることも話しました。今回は油に非常に大きい圧力をかけた時に油がどのように変わるかをおはなしします。

このブログを見て頂いている方はおそらくトラクションオイルについて、少なくとも言葉はご存知かと思います。そしてそれは、「ふだんは普通の油だけど、大きな圧力を受けると急に固まって、大トルクの伝達が可能になる」というのが私も含め一般人の認識ではないでしょうか。専門家の方々に言わせればもっと的確な表現があるかもしれませんが、私はずっとそんなイメージでおりまして、今でもそうです。

その原理を簡単に説明しますと、全部がそうとは言いませんが一般的にトラクションオイルは図1右上のように動力伝達しているみたいです。分子自体に突起と凹みがありまして、普段は各分子がばらばらなので普通の潤滑材として機能するのですが、大きな圧力をかけると接触部で分子が密集するため、互いの分子の突起と凹みが引っ掛かって大きなトラクション力を出せるようになるそうです。で、この「普段のばらばらの状態」から「突起と凹みが引っ掛かる状態」に変わることをガラス転移と言ってるみたいです。

12_01_トラクションオイル.jpg
図1.トラクションオイル

で、ここで前回の話の続きに飛びます。Maxwellモデルはどんな条件でも成り立つわけではありません。前回の式(1)を見れば、ひずみ速度を無限に上げていけばせん断応力も無限に上がっていきますが、実際はどっかで油がせん断力に耐えきれなり、それ以上のトラクション力は出ない上に発熱の原因となります。

つまり油には限界せん断応力τcというものが存在します。そしてこのτcは主に圧力と温度に依存します。図2を見て下さい。これはとあるトラクションオイルの圧力Pに対する限界せん断応力τcの値を示しています。温度によってもτcが変わることがわかると思います。この図から言いたいことは以下の2つです。

①圧力を上げるとτcは大きくなる。
②圧力を上げていき、ある閾値を越えるとτcの増分が急激に大きくなる。
③同じ圧力ならば、温度が高い方がτcは小さい。

このうち①はまあいいとして、まず②について補足しますと、図2横軸の0.8GPaあたりにPGと小さく書いてあります。これはオイルが70℃の時は圧力がPGを越えると急にτcが圧力に依存して大きくなることを言ってます。で、この圧力をガラス転移圧力といいます。

12_02_限界せん断応力特性.jpg
図2.油の限界せん断応力特性

で、ここで最初に話した図1らへんに戻ります。トラクションオイルに圧力をかけるとガラス転移して大きなトラクションが出せるようになると述べましたよね?図2はそのことを言ってます。ちなみにガラス転移後の油は粘性はほとんどなくなり、固化とか結晶化とか言われてますがようは弾塑性体としての挙動になるそうです。液体から固体になるようなイメージです。

最後に③について少し補足します。②のように圧力を上げていけばτcはどんどん大きくなりますが、それでもひずみ速度がかなり大きい場合には限界のτcを越えることもあります。その場合、結局せん断応力はτcで一定になるのですが、この場合は接触面の発熱が無視できなくなります。そうすると接触面の温度が上がるので、結果として③で述べた通りτcは小さくなってしまいます。このへんは次回もおはなしするかもしれません。

こっからは余談ですが、図2を見るとガラス転移前のτcってほんと小さいですね。前回粘弾性の話をいろいろしましたが、トラクションドライブをやろうと思ったらそのへんの話よりもとにかく圧力を上げてガラス転移させないと話にならんなあと思いました。ガラス転移圧力は条件にもよりますがだいたい1GPaを目安に思っておけば良いみたいなので、トラクションドライブを使うならそのへんの接触圧力は必要ということですね。

では今回はこのへんで。次回は弾塑性体におけるトラクション力の求め方について簡単に触れたいと思います。今回もご覧いただきありがとうございました。
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